採れたて本!【国内ミステリ#12】

採れたて本!【国内ミステリ】

 1冊の小説の中で、複数の時代を描くのは極めて難度が高い。筆力がなければ全体の印象が散漫になりかねないし、ひとつひとつの時代の考証も疎かに出来ないので手間がかかるからだ。そんな高いハードルに敢えて挑んだのが、友井羊の『100年のレシピ』である。

 著者は第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞した『僕はお父さんを訴えます』で2012年にデビューし、『ボランティアバスで行こう!』『無実の君が裁かれる理由』などのノン・シリーズ作品のほか、手作りスープが自慢のスープ屋の店主・麻野が謎を解く「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」シリーズなどで知られている。今回の新作『100年のレシピ』は、タイトルから推察されるように、著者が得意としている「料理レシピ+謎解き」路線に属する作品だ。

 第一話「2020年のポテトサラダ」では、それまで料理を上手く作れなかった大学2年生の理央が、通いはじめた大河料理学校で校長の息子・大河翔吾と知り合いになる。翔吾の曽祖母・大河弘子は高名な料理研究家で、100歳近い今も健在だという。翌2020年、コロナ禍が日本を襲う。理央も味覚の異常を感じたが、不思議にもそれは一時的なもので、咳や熱などの症状もなかった。

 この第一話では、理央の身に起こった事態を、オンライン通話で弘子が安楽椅子探偵風に解き明かしてみせる。これをきっかけに、理央は卒業論文のテーマとして、大河弘子を通して戦後日本の家庭料理の歴史を調べることを決意し、曽祖母についてもっと知りたいと考えていた翔吾に協力する。ここからは、弘子を知る人々への取材のかたちで、第二話「2004年の料理教室」、第三話「1985年のフランス家庭料理」……といった具合に、年代を遡りながら大河弘子の生涯が明らかになってゆくのだ。

 それぞれのエピソードは独立しているものの、全体を通して2つの謎が用意されている。1つは、理央の祖母と弘子のあいだで過去に何かがあったらしいこと。もう1つは、弘子が料理への異物混入に関して特に厳しい態度を取っていた理由である。

 コロナ禍の現代から、バブル期、戦後まで、さまざまな時代をありありと描きつつ、それぞれの世相と料理に関する謎解きとを絡め、更にひとりの女性の人生の厚みをも感じさせるという試みに成功した本書は、著者の新たな代表作と言える高い完成度を示している。読後、今度は最終話から第一話へと遡りながら再読したくなる1冊だ。

100年のレシピ

『100年のレシピ』
友井 羊
双葉社

評者=千街晶之 

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