採れたて本!【歴史・時代小説#33】

光厳天皇を描いた歴史小説『風と雅の帝』で、第30回中山義秀文学賞を受賞した荒山徹の受賞第1作は、菅原孝標女『更級日記』と忠臣蔵、山田風太郎〈忍法帖〉シリーズを融合させた、著者の初期作品を思わせる伝奇小説である。
大坂の陣で豊臣家が滅びて13年後。高須藩士の娘で物語が好きな美緒は、自分の肌に毛虫、芋虫を這わせている女性を見かけ、『堤中納言物語』の一編「虫めづる姫君」のようだと声を掛ける。それが縁になり、美緒は物語が好きな藩士の娘たちが結成した更級乙女組に入る。
そんな折、高須藩は幕府に命じられた大坂城二の丸の石垣普請の遅れを理由に改易される。ところが、怠慢で遅れの原因を作った加賀百万石の分家・魚津藩はお咎めなしだった。改易後の混乱で家族を亡くし、盗賊に襲われるなどした高須藩の女たちは、藩主の二人の娘に尼寺の景福寺に集められた。景福寺の桂月尼は、先代藩主が朝鮮国から連れ帰った妖術師で、美緒ら更級乙女組を含む47人の女たちに、魚津藩主の前田上野介利堅を討つため妖術の苛酷な修行を始める。
一方、前田上野介の姉・豪姫は、同じカトリック信者で朝鮮国から来たフランチェスカに助けを求める。フランチェスカも朝鮮妖術を使うが、桂月尼が百済系なのに対し、フランチェスカは新羅系で、この二つの流派は敵対しているという。豪姫は、剣豪の富田一放とフランチェスカに、弟を守って欲しいと頼む。
豪姫は前田利家の娘で、豊臣秀吉の養女になり宇喜多秀家に嫁いだ。夫が関ヶ原の合戦で敗れ八丈島に流された豪姫は、国を失った高須藩の女たちに同情を示し、復讐をしなかった過去を悔いることもあった。男たちが起こした混乱で似た境遇の女性たちが敵味方に分かれるところは、男社会が女の敵は女という構図を作っている現状への皮肉に思えた。それでも役にたたない男に代わり、女性たちがそれぞれの大義を成そうとする展開には、男性優位の現代日本で懸命に働いている女性読者は勇気がもらえるはずだ。
中盤以降は、妖術師、剣豪、忍びが入り乱れるバトルが連続し、息つく暇がない。女性が戦闘の主体になるのは風太郎『外道忍法帖』を、妖術と剣術の戦いは風太郎『魔界転生』を思わせるが、朝鮮の歴史と文化を使って独創的な妖術と迫真の戦闘シーンを作ったところには、朝鮮史に詳しい著者の独自性が出ていた。
美緒ら更級乙女組は、『更級日記』に物語を読み耽ることを「后の位も何にかはせむ」と書いた菅原孝標女に傾倒していた。だが妖術修行と激しい戦闘を経験するうち、晩年に物語へ耽溺したことを悔いた孝標女の心情に共感する。それでも物語が好きだったが故に編み出せた妖術を使い敵と戦う更級乙女組は、小説は実生活の役に立つのか立たないのか、無用かもしれないのに人はなぜ小説を読むのかを問う秀逸な読書論にもなっており、読書が好きな方は特に楽しめるだろう。
評者=末國善己