ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第17回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第17回
クリエイター関係フリーランスが
「老後までに2000万」問題を考えてみた。

アドバイスするには正確なデータが必要なのである。
我々はそのデータがすでに「この学園には、7、8…約10個の不思議がある」状態なのである。

まず、収入が1か月たりとも定まっていない。
連載など継続的な仕事があるなら、ある程度定まっているように見えるが、それがいつまで続くかと聞かれたら「わからない」。

終わったら新しい仕事を始められるようにするとは思うが「いつごろ始まるんですか」と聞かれたら「わからない」。

フリーランス向けの、資産作り本もいろいろ出ているが、支出を減らしたり、フリーランスが利用した方が良い制度の説明などはしているが、大体収入部分はブラックボックスなのである。

だがそれは仕方がない。何せ「わからない」のだ。
例え数字を入れても来月には変わっているので決めても意味がない。

収入面に言及しようとすると「連載が続くようにする」とか「売れる漫画を描く」とか、計画より「願望」になってきてしまい、説得力がなくなるので「書かない方がマシ」になるのだ。

よって、プランナーに何を聞かれても半分ぐらい「わからん」になってしまうので相手も「神を信じろ」ぐらいしか言えなくなってしまう。

まず「固定収入を得られる仕事に就くところから始めてはどうか」と言われてしまいそうだが、そういう仕事に就けないからこういう仕事をしている、ということがわからないようでは、プロとして三流である。

そんな明日も知れない仕事をしていて、不安ではないか、と思われるかもしれないが、もちろん不安である。常人なら狂を発しているかもしれない。

ではなぜ我々が平気かというと、そういう現実的な問題が目の前にあるのに「今殺し屋が襲ってきたら何で戦うか」を考えられるからである。

クリエイターというのは、基本的に「想像力」が豊かなのだ、その想像が面白いかどうかは置いといて、意識を「ここではないどこか」に飛ばす能力に非常に長けている。

つまり「現実逃避能力」がすごいのだ。
常人の現実逃避が「紙芝居」なら、我々の現実逃避は「VR」ぐらいの没入感がある。

フリーランスは、不安定だが、不安定に耐える力、もしくは目をそらす角度が、固定給より鋭いのである。

足りない能力を、別の能力でカバーする。人間というのは意外と上手く出来ているものだ。

ハクマン

(つづく)
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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。