ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第27回
できれば何も聞かれたくない。
それが漫画家の本心だ。
前回「奴らは年末進行が終わった後、平気で「次の締め切りは1月6日です」と言ってくる、と書いたが、マジでこの原稿の締め切りが6日なので、逆に清々しい気持ちでいっぱいだ。
実際作家というのは、土日祝日などがあまり関係ないのだが、それでも正月にはそれなりに「世間」と関わることになる。
具体的に言えば、お互いの実家など、親戚と顔を合わせることになる。
私は、親戚の中に一人はいる「何をして食っているのか不明なおじさん」という重鎮ポジションを僭越ながら担当させていただいているので「私のような若輩がこのような席に」と恐縮しきりで居心地が非常に悪い。
私が鬼滅の刃の作者なら、甥や姪からも羨望の眼差しであろうが、残念ながらあれを描いているのは私ではない。
むしろ鬼滅の刃の作者以外は、毎年どんな顔で親戚の集まりに参加しているのか参考までに知りたいぐらいだ。
実際、売れていない作家に対する親戚の対応というのは大体「スルー」である。
これは余命宣告された人に「元気か?」と聞かないのと同じだ。
しかし、私の住んでいる田舎では「漫画家」という職業はまだ珍しいのである。
都会であれば、3人路上に寝ていればその内2人は漫画家で、もう1人はラッパーだと思うが、私の地元では私ぐらいしか寝ていない。
よって、そういう変わった仕事をしているのに、そこに触れないのは逆に失礼と考えるのか、あいさつ代わりに「今どんなの描いてるんですか?」と聞いて来る人もたまにいる。
当たり障りのない質問のようで、これが意外と地雷なのだ。
小学生以下の女児がいる集まりでコミックLO作家にその質問をしてはいけないのはもちろんなのだが、描いているジャンルはあまり関係ない。
何故なら、漫画家というのたまに「何も描いてない」ということがあるからだ。
つまり離婚した人に「奥さん元気すか?」と聞くのと大して変わらないことになってしまうのである。
大体仕事の調子が良ければ聞かれなくても自分から言うはずだ。無言で皿の上の栗きんとんをこねくり回している漫画家は大体調子が悪いので、何も聞かない方が良い。