〈第18回〉加藤実秋「警視庁レッドリスト」

自宅待機を命じられた慎。
一方、みひろはとんでもないメールを発見する。

CASE4 禁じられた関係:パートナーは機動隊員(5)


  

 14

「どういうことですか!?」

 声を上げ、みひろが席を立つと豆田は眉を寄せて背中を向けた。その前に回り込み、みひろはさらに訊ねた。

「室長に何があったんですか? 教えて下さい」

「僕にも、よくわからないんだよ。とにかく大人しくしてて。今後のことは、また知らせるから」

 目を合わせず早口で答え、豆田はドアに向かった。みひろが追いかけようとすると振り向き、「これ」と言って手に何か握らせてきた。それがフィルムに包まれた栗饅頭(くりまんじゅう)だとみひろが認識している間に、豆田は職場環境改善推進室を出て行った。

 しんとした部屋に残され、みひろは席に戻った。豆田は昨日の朝もここに来て、慎は病欠だと告げた。そしてさっき、「阿久津さんは休暇を取った。いつ戻るかはわからない」と言われた。時刻は午前九時過ぎだ。

 栗饅頭を机に置き、ジャケットのポケットからスマホを出した。慎に連絡しようとして、一昨日の晩のやり取りを思い出した。気まずいし、腹も立っている。加えて慎の休暇に監察係が関わっているのは明らかで、下手に動けばさらに慎の立場を悪くする恐れがある。

 どうしようか迷っていると、ノックの音がしてドアが開いた。顔を出したのは、堤だ。

「一昨日はどうも。今いいですか? あれ。阿久津さんは?」

 きょろきょろしながら問いかけ、堤は部屋に入って来た。みひろはスマホを置いて立ち上がった。

「室長は、今ちょっといなくて。どうしたんですか?」

「あれから泉谷と話し合ったんです。僕たち、交際申告書を出すことにしました」

「交際申告書って、恋人ができたら上司に提出するやつ? 堤さんは泉谷さん、泉谷さんは堤さんの名前を書くってことですか?」

 驚いて訊くと、堤は「もちろんです」と頷いて続けた。

「いずれ誰かに内通されるなら、自分たちでやろうって。警察って、僕らみたいな存在はないことになってるじゃないですか。どうせ飛ばされるなら、『俺たちはここにいる』って宣言しようと決めました」

「そうですか。でも、いいんですか?」

「ええ。何があっても、僕らが一緒にいることは変わりませんから。それに、近いうちに状況は変わる気がするんです。泉谷は『三雲さんがやってくれるよ』って言ってて、僕もそう思います」

「私が? 警察を変えるってことですか? 無理無理。中途採用の平巡査に、できる訳ないじゃないですか」

 首と手のひらをぶんぶんと横に振り、みひろは訴えた。それを見て堤は笑い、こう答えた。

「一人じゃ無理でも、阿久津さんと二人ならできるんじゃないかな。お願いしますよ」

「できない。もっと無理」

 自分と慎が置かれている状況を思い、みひろはさらに首を横に振った。すると、堤は真顔になって話を変えた。

「お願いするだけじゃ虫がよすぎるので、情報を一つ提供します。一昨日阿久津さんに、伊丹係長のLINEのパスワードを割り出せって言われましたよね?」

「ええ。でも堤さんは、『できません』って断った」

「そうなんですけど、実は察しは付きます。二カ月ぐらい前に係長に、『パソコンがフリーズした』って呼ばれて直しました。その時パソコンの画面には検索エンジンのUh-huhが表示されてて、係長のユーザーアカウントが、ちらっと見えたんです」

「ユーザーアカウントって、パソコンやサイトにログインする時に使う記号ですよね。数字やアルファベットを組み合わせて考えるやつ」

「ええ。Uh-huhの場合は、ユーザーアカウントとパスワードを入力するとフリーメールを使ったり、電子決済で買い物ができたりします。だから慎重に考えなきゃいけないんですけど、パソコンが苦手な人は『面倒臭い』『忘れると困る』って、ユーザーアカウントとパスワードを同じにしちゃうことが多いんです。しかも、複数のサイトやアプリで同じユーザーアカウントとパスワードを使い回す。伊丹さんも、このパターンだと思います」

 最後は呆れ顔になり、堤は話を締めくくった。

 


「警視庁レッドリスト」連載アーカイヴ

 

加藤実秋(かとう・みあき)
1966年東京都生まれ。2003年「インディゴの夜」で第10回創元推理短編賞を受賞し、デビュー。『インディゴの夜』はシリーズ化、ドラマ化され、ベストセラーとなる。ほかにも、『モップガール』シリーズ、『アー・ユー・テディ?』シリーズ、『メゾン・ド・ポリス』シリーズなどドラマ化作多数。近著に、『渋谷スクランブルデイズ インディゴ・イヴ』、『メゾン・ド・ポリス5 退職刑事と迷宮入り事件』がある。
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