警視庁レッドリスト
2 天井のスピーカーから、午後五時を告げるチャイムが流れた。みひろは抱えていた段ボール箱を別の段ボール箱の上に載せた。息をついて手の埃(ほこり)を払い、室内を見回す。 今朝「今後のことは、また知
1 「電話を切って部屋に戻って下さい。五分後に人が来ます」 機械的にゆっくりと、中森翼(なかもりつばさ)は告げた。阿久津慎(あくつしん)は訊(たず)ねた。 「どういう意味だ?」 「すみません。
14 「どういうことですか!?」 声を上げ、みひろが席を立つと豆田は眉を寄せて背中を向けた。その前に回り込み、みひろはさらに訊ねた。 「室長に何があったんですか? 教えて下さい」 「僕にも、
12 足を止め、みひろはアパートを見上げた。周囲は薄暗く、二階の左から二番目の窓には明かりが点っていた。 建物の脇の階段を上がり、等間隔でドアが並んだ通路を進んだ。目当てのドアの前で足を止め、
9(承前) 頭を切り替え、慎はみひろに向き直って答えた。 「無論、よりよい職場環境づくりのための聞き取り調査です。三雲さんこそ、なぜここに?」 「戻って来たら車があるのに室長がいないから、心配
5(承前) ママに案内され、本橋はカウンターのみひろの隣に座った。 「突然すみません。監察係の本橋です。独身寮に行ったら、隣の部屋の人が三雲さんは多分ここだって教えてくれたので」 「そうですか。
1 ノートパソコンに目を向けたまま、三雲(みくも)みひろは机上のコーヒーの入った紙コップを取った。液晶ディスプレイに映し出された表には、「阿久津慎(あくつしん)」の氏名と職員番号、所属部署、階
13 「続きは明日」と言って電話を切ったのに、一時間も経たずに慎から着信があった。みひろが出ると「奥多摩に出動です。今どちらですか?」と訊かれ、独身寮の近くで買い物中だと答えたところ、慎はすぐに車で
11 「二〇一〇年? なにそれ。本当?」 苦笑して問いかけ、柿沼はコーヒーを飲んだ。頷き、みひろは答えた。 「本当です。賞味期限の日付まで覚えてますから」 「河元は人はいいけど、大雑把なところがあ
8 三十分ほど走ったところで脇に入り、山道を少し登ると前方に石造りの塀と大きな鉄の門が現れた。事前に連絡してあったらしく、みひろたちの車が着くのと同時に奥から生成り色の上下を着た若い男が現れ、門を
4 予想外の展開に、みひろはうろたえた。だが慎は動じることなく、柿沼に「遺体が気になり本庁に戻る途中で立ち寄りました。赤文字リストとは?」と問い返した。すると柿沼は、「監察医と話があるから、駐車場
1 青梅(おうめ)街道を外れると、未舗装になった。阿久津慎(あくつしん)は車のスピードを落とし、がたごと揺れる狭い山道を登った。 「あそこですね」 助手席の三雲(みくも)みひろが、フロントガラス
9 翌日の午前十時過ぎ。みひろは慎と用賀分駐所の会議室にいた。長机を挟み、向かいには里見が座っている。 「本当に川口巡査部長は、全部話したんですか?」 背中を丸め首を突き出すようにこちらを見て、
6 「あのマンション、築二十年ぐらいですよね」 沈黙を破り、みひろは口を開いた。運転席で資料を読んでいた慎が顔を上げ、フロントガラス越しに前を見た。三十メートルほど離れた場所に、マンションがある。
4 正午を過ぎ、里見たちは休憩のために用賀分駐所に戻った。みひろたちも一緒に戻り、会議室を借りて聞き取り調査を始めた。 警視庁は都内の警察署を十の方面に区分けしており、四隊ある自ら隊もそれぞれ担
1 深く下げていた頭を上げ、監察係首席監察官の持井亮司(もちいりょうじ)は身を翻した。部下の柳原喜一(やなぎはらよしかず)理事官が開けたドアから警視総監室を出て廊下を歩きだす。 「射撃訓練の時期と
10 翌日、午前九時。みひろと慎は日本橋署の会議室にいた。長机の向かいには、星井巡査部長。 「これって昨夜(ゆうべ)? 来てたんですか? 全然気がつかなかった」 机上の写真を見るなり、星井は慎が
7 翌朝。みひろは再び慎と日本橋署に向かい、会議室で交通総務係の係員の勤務状況に関する書類に目を通した。古屋には係員全員の書類を用意してもらったが、念入りにチェックしたのは当然黒須と星井の分だけ。