2023年本屋大賞ノミネート記念対談 ◆ 凪良ゆう × 町田そのこ

2023年本屋大賞ノミネート記念対談 凪良ゆう×町田そのこ 本屋さんと私たち

本屋さんと私たち

『流浪の月』で2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんと、『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞した町田そのこさん。凪良さんは島暮らしの高校生の男女の出会いから始まる物語『汝、星のごとく』で、町田さんは二人の母を持つ少女の成長を見つめる『宙ごはん』で、2023年本屋大賞ノミネート10作品に再び選ばれた。
 二人の対談は「小説現代」2022年9月号に掲載されたこちらに続いて二回目。お互いの作品を読み合い、以前から親交のある盟友同士が、本屋大賞と本屋さんの魅力についてたっぷり語り合った。


最初のノミネートは嬉しい、だけだった

──「2023年本屋大賞」のノミネート作が発表された際、お二人とも「嬉しい以外の言葉がない」という趣旨のツイートをされていました。発表からしばらく経ちましたが、少し詳しい心情をお伺いできますか。

町田
 ノミネートが決まった時は、『宙ごはん』を一緒に作り上げてきた担当編集さんの顔が一番に浮かびましたし、書店員さんたちの「町田さんまた入った!」と喜んでくださる顔が想像できました。今回が3回目のノミネートなので、「町田、まだまだ頑張れよ」というみなさんの応援だとも感じられたんです。それが嬉しくて励みにもなりましたし、いい意味でのプレッシャーにもなりました。

凪良
 私も今回が3回目のノミネートなんですが、町田さんと同じく一度大賞をいただいた身の上としては、再度ノミネートしていただけること自体がとてつもなくありがたいし嬉しいことだなと思っています。特に今回は、「もうノミネートされないだろうな」という恐怖やプレッシャーが正直あったんですよね。支えてくださっている書店員さんや周りの方たちに報いたい思いが強くなりすぎてしまった。「きっとノミネートされますよ」って励ましてくださるみなさんの言葉が嬉しいのと同時に、入らなかったらがっかりさせちゃう、という気持ちになっていました(苦笑)。だから、ホッとした感覚も大きかったんです。最初のノミネートの時は、そんなこと全く思わなかったんですよ。もっと単純に「あーーーー!」って感じだったんです。

町田
 分かります。私も最初のノミネートの時は、ただただ「あーーーー嬉しい!!」だけでした(笑)。

凪良
 それまで私はずっとボーイズラブの世界で活動していて、『流浪の月』が初めての単行本でした。文芸の世界の常識もほとんどない状態でノミネートしていただいて、「すごいね、良かったね」と言ってくださるみなさんと一緒に喜んでいるうちに、なんと受賞に至ってしまった。初めての時って、分からないことのほうが多いじゃないですか。だからただ嬉しい気持ちだけでいられたのかな、と。

町田
 1回目の本屋大賞の時のことを振り返ってみると、周りの人が「緊張しなくていいよ、楽しんでいいんだよ」と言って守ってくれていた気もします。でも、今の自分は受賞の意味を知ってしまっている(笑)。

凪良
 そうなんです(笑)。先日、『汝、星のごとく』が直木賞にノミネートされたんですけれど……。

汝、星のごとく

『汝、星のごとく』
凪良ゆう
講談社

町田
 めちゃめちゃ応援してました!

凪良
 ありがとうございます! 直木賞のノミネートは1回目の本屋大賞の時とほぼ同じ感覚で、候補に入れていただいただけで満足だし、受賞発表まで気楽に楽しんで待つことができました。でも今回の本屋大賞は、ノミネートが決まる前からずっとザワザワしています(笑)。それは決して悪いことではなくて、賞の大きさやノミネートから受賞に至るプロセスをきちんと理解して、一つ一つの出来事を噛み締めることができているってことでもある。だから、今回はめいっぱい楽しみたいなと思っています。

「推し」が受賞したら授賞式で何をします?

──ノミネートされた10作の中で、お二人の作品は新しい家族の形、「普通」を疑い拡張するような家族像を描いている点が共通しているように感じました。今という時代を見渡した時にそのモチーフを焦点化したいと思われたのか、それとも作家として書き継いできた道のりの中から現れたものなのでしょうか。

凪良
 今の時代の空気感であるとか、問題になっていることを完全にスルーして物語を紡ぐことは難しいんですよね。『汝、星のごとく』は高校生の男女が出会って長い時間が流れていく話を書いていったものなので、今を生きている若い人たちの人生を描いていくうちに、既成の家族像とは違うものが自然と生まれたのだと思います。例えば、助け合って自分たちが生きやすくなるために結婚する「互助会結婚」という言葉も、特に悩まず自分の中からするっと出てきたものでした。昔は日本でもお見合い結婚が多かったですし、恋愛感情からではなく結婚する夫婦がいてもいい。同性同士のカップルが結婚という制度を利用できないのはおかしい、と思っている人のほうが今は多いですよね。恋愛にせよ結婚にせよ家族にせよ、もっと自由でいいと思っている人が大多数なのに、政治家だけが許してないって気がします。

町田
『汝、星のごとく』は本当に痺れましたよ。同じ作家として「すごすぎる……」って脱力しかけたんですが、読者としてこのすごさを誰かに伝えなきゃみたいな使命感が湧き上がってきて、せっせと口コミに励みました(笑)。「私もそういう衝動を読者に与える物語を書きたい」と思うんですけど、なかなかそこまでは……。

凪良
『宙ごはん』もたまらなかったです! 宙ちゃんもお母さんの花野さんも、みんながそれぞれの人生をバラバラに生きていて、でもちゃんと家族なんですよね。

宙ごはん

『宙ごはん』
町田そのこ
小学館

町田
 私はデビュー作の時から、集団の中でどう自分が息をしやすく生きていくかっていうところに意識が向きがちというか、気になっていて。その自分なりの答えを探すために、ずっと物語を書き続けてきたと思っています。今回の『宙ごはん』では、家族というコミュニティのあり方や、その中での母と娘のあり方に注力して書いていったんですね。それを書き上げた時に、自分なりの答えをやっと見つけられた感覚があったんです。新しい家族の作り方や、集団の中での生き方、呼吸の仕方。デビュー作から書いていたことが、もしかしたらここで一度書き切れたんじゃないかなというふうに感じられた。次からはこれまでの枠から飛び出て、挑戦できていなかったジャンルとか、私には無理でしょうって腰が引けていた題材に取り組んでいきたいなと思っているところなんです。

凪良
 町田さんは次にどんなものを書くんだろう。ものすごく楽しみ。

町田
 ありがとうございます。どんなものが書けるんですかねぇ。今まさに模索中なんですけど、昨年ちょっとしたミスで尻の骨を折ってから全然筆が進みません。

凪良
 噂で聞いています(笑)。お尻、お大事にしてください。

──お話を伺っていると……本屋大賞で大賞を争うという意味ではライバル同士だと思うのですが、同志という感じなんでしょうか?

町田
 凪良さんがまさにそうなんですが、私にとっては同志というより「推し」って感じです。今回の本屋大賞も「推し」がずらっと並んでいる中に、なんでか私もいるぞ、みたいな(笑)。「推し」が受賞したら、授賞式で紙吹雪を撒きたいですね。

凪良
 私も大好きな作家さんがたくさんノミネートされているので、その方が受賞となったらすごく喜ぶと思うんです。でも、私は「推し」に近づくのは怖いほうなので、遠くからジトーッと見ていると思います(笑)。

町田
 一緒に撒きましょうよ!

何気なく手に取った本にも本屋さんからのサインが

──本屋大賞を受賞したことで、作家としてどんな変化がありましたか?

町田
 私の場合、デビューして最初の数年はファンレターをもらうこともなければ、ネットにレビューが1個でも付いたらスクショして大事に取っておく、という感じだったんです。読者という存在は本当にいるものなのか、私にはほとんど顔が見えなかった。本屋大賞を受賞したことで、まず書店員さんという読者の顔が見えて、私の本を好きでいてくれる人たちが他にもいっぱいいるんだって実感ができたんです。その人たちが、がっかりしないものを書きたい。創作に向き合う時の姿勢に変化があって、すごく背筋が伸びたなと思います。ただ、書く内容そのものはあまり変わってないんですよね。

凪良
 私も書く内容にほぼほぼ変化はなかったんですが、版元さんの努力とか、応援してくれる書店員さんの存在であるとか、読者さんとか。自分の出す本に関わる人々の輪郭が、すごく濃くなったように感じています。

町田
 本屋大賞を受賞すると、日本全国の書店員さんたちから副賞みたいな感じで、手作りのポップをたくさんいただけるんです。それを一つ一つ読んでいった時に、作品に対してこんなに情熱がある人たちが推してくれたんだと実感できましたし、ポップでお客さんの目を引いてちょっと本を手に取ってみようと思わせる、技術の高さを知りました。私が書いた本なんですけど、めちゃめちゃ面白そうだったんですよ(笑)。ポップを見る目が変わりましたね。

凪良
 私も、以前よりもものすごく注意してポップを見るようになりました。ただ、はっきり意識しているかいないかだけで、確実に目には入っていたと思うんですよ。特に私が若かった時って、インターネットも発達していなかったし本を紹介する小説誌を読む習慣もなかったから、本との出会いの場所は本屋さんだったはずなんです。私が尊敬している天上人のような作家さん、山本文緒さんや江國香織さんの本とも、本屋さんで出会ったはず。じゃあどうしてその本を手に取ったのかというと、熱のこもったポップがあったり、目立つところに置いてあったりとか、お客さんたちに訴えかける何かがあったと思うんですよね。自分としては何気なく手に取ったと思っていたけれど、そこには本屋さんからのサインがあった。そのおかげで、一生追いかけたくなるような作家さんと出会うことができた。考えれば考えるほど、すごいことだなと思うんです。

町田
 その瞬間が見てみたいですね。

凪良
 そうなんです! どうやって若い頃の私に初めて山本さんの本を手に取らせたんだろう、江國さんと初めて出会わせてくれた本屋さんはどんな仕掛けをしててくださったんだろうって、タイムマシンに乗って見に行きたいですね。そういう出会いが日々本屋さんで起こっているんだなと思うと、書店員さんたちへの尊敬と感謝の気持ちが止まらなくなりますね。

町田
 自分が選び取ったつもりでいたけれども、選ばされていたっていうのはその通りだなと思いましたね。私は凪良さんの話を聞くまでは、自分のセンスの良さだわ、みたいなふうにちょっと思っていたんですけど……。

一同
(笑)

町田
 ポップなどをサラッと見て手に取ったはずなのに、「私、めっちゃセンスあんじゃん!」って自分の手柄にしていたなと気付きました。

凪良
 その感覚は、あるあるです(笑)。

立ち読みの魅力と書店員さんの個性

──本屋さんにはどんな思い出がありますか?

町田
 うちは田舎だったので、近所に書店がなかったんです。子どもの頃は隣町の書店まで親に連れて行ってもらって、『りぼん』とか『なかよし』を買うのが楽しみでした。書店って、憧れの場所だったんです。

凪良
 私はちっちゃい頃、本屋さんがすぐ近所にあったんです。

町田
 うらやましい!

凪良
 漫画の棚が三つぐらいしかない、ちっちゃい町の本屋さんです。大人が立ち読みしていると、おじさんが掃除に来たりして追い出されるんですけど、子どもが立ち読みしているぶんには何も言わずにいてくれるんです。お小遣いが入ると一冊ずつ買いに行くという感じで、三つある棚の本は全部読んじゃったのを覚えています。そこからもう一周、みたいな(笑)。私は鍵っ子だったので、学校から帰っても家に誰もいなかったんです。本も好きだったし、誰かがいるところに行きたかったのかもしれない。子どもにとっての避難場所みたいなもので、本屋さんにはむっちゃ助けてもらいました。

町田
 私は車の免許を取ってから、書店がぐっと身近になりました。それまでは大人に連れて行ってもらって、大人の采配で「はい、もう帰るよ」という感じだったのが、好きなタイミングで行けるし好きなだけそこにいられる。よく覚えているのは二十歳ぐらいの時、『デルフィニア戦記』(茅田砂胡)という本にハマったんです。シリーズもので、わりと冊数があるんですよ。私は当時お金がなくて、日中に車で書店へ行って二冊だけ買ったんですけれど、家に帰って読んでいたら我慢できなくて、その日のうちに家中のお金かき集めてまた買いに行って(笑)。

凪良
 本をいっぱい買えた時って、大人になったなぁって感じがしましたよね。それこそ「大人買い」って、夢でした。

町田
 夢でしたよ。初めて書店で紙袋を出された時には、知恵熱が出た気がしましたね。「ビニール袋だと破けちゃうぐらい買ったの!? 大人になったなあ、私」とうほうほしながら帰りました。

──作家になってから、本屋さんとの関係は変わりましたか?

町田
 懺悔したいことがありまして……。デビュー作の単行本が出た時、地元の一番大きい書店で一冊だけ棚差しになっていたんです。その一冊を棚から取り出して、新刊スペースに積んである町田康さんの単行本の上にのせて帰ったことがあります。すみません!

凪良
 書店さんが苦労して考えた並びを崩すという。いけませんね(笑)。

町田
 本当にいけませんよね。私、いま思えば相当迷惑だったと思うんです。

凪良
 地元の大きな書店さんに自分の本がないと悲しくなっちゃう気持ちは、めちゃくちゃ分かります。一番近くの書店さんに私の本、めっちゃ少ないんですよ。でも町田さんの本はいっぱい展開されているので、「なにくそっ!」と思っているところです。

町田
 上に置いてくださって大丈夫ですよ?

一同
(笑)

町田
 書店員さんってすごく大変な仕事なんだなと分かるようになったのは、作家になって数年経った後、それこそ本屋大賞に関わるようになってからですね。それからは書店に行ったら、ありがたいって気持ちを感じるようになりました。

凪良
 私も同じです。受賞をきっかけに、本屋さんに本が並んでいる、という当たり前の風景の裏側にいろいろな人の存在や思いを感じるようになりました。出版社の営業さんが、本を売るために全国各地を歩き回っていることも知らなかったですし。もしも作家として本屋さんのお話を書くとして、子どもの立場で書くんだったら、昔の私のように避難場所みたいな形で書くと思う。大人の立場で書くとしたら、書店さんとか版元の編集さんとか宣伝さんとかも一緒になって、「戦う場所」として書くような気がしますね。本を売るために戦っている人たちのお話は一度書いてみたいなと思います。あ、そうだ。「小説現代」3月号に書いた『汝、星のごとく』のスピンオフは、作中に出てきた編集者二人の物語なんです。

町田
 それ、読みたいです!

──どこそこの本屋さんが閉店した、街から一軒もなくなってしまった……というニュースを目にする機会も最近は多いです。

凪良
 この間、編集さんから悲しいお手紙が届いたという話を聞いたんです。小さなお子さんから、「本というものはどこに行ったら買えるんですか」と。本屋さんの数が少なくなっていることもあるのかもしれませんが、ご両親が本を読まない方たちだと、本を買うという習慣がないですよね。子どもは自分だけの力で遠いところに行けないから、ある程度の年齢になるまでリアルで本屋さんを見たことがない、入ったことがない子どもたちもたくさんいるんだろうなと思うと、ハッとしました。

町田
 私は冒頭の1ページを読んで、その本を買うかどうか決めることが多いんです。装丁を見て、本の重さを感じながら開いて、最初のページに印刷された文章を読んで「よし、この本は連れて帰ろう」って。それができるのは、書店だけなんですよ。ネット書店では絶対できないんです。

凪良
 立ち読み文化は、なくならないでほしいです。最近思うのは、このところ本をあまり読まない子が増えてきたとか小説の売上が減っていると言われているけれど、若い頃と比べると、本についての情報を届ける手段が確実に増えている。例えば、Twitter のアカウントを持っている書店員さんがたくさんいらっしゃって、本の感想のつぶやきがポップの機能になって、普段はなかなか本屋さんに足を運べない人たちにも情報を回してくれる。読者さんが本の感想をツイートしてくれたり、TikTok で本を紹介してくださるインフルエンサーの方も増えたりしていて、昔よりも本に出会う機会が多いのは今の方がいいことかなって思います。SNSで、書店さんや書店員さんが独自で「○○賞」と作っているのを見るのも大好きです。

町田
 書店員さんって、仕事に限らず本をたくさん読んでいる人たちが多いし、個性的で魅力的な方も多いじゃないですか。その方たちが「一年間本を読んできて、私はこれが面白かった!」と独断で選んだ本は何なのか、私もいつも興味深く見ています。

本屋大賞や自分たちの本が読書の沼の入口になれたら

──全国の書店員さんたちの個性が大集結する場所が、本屋大賞ですね。

凪良
 今年で20年目と聞いて、驚きました。最初は数人の書店員さんたちが手弁当で、持ち寄りで始めたものが、こんなに大きな賞に成長していった。関わったみなさんの努力に頭が下がる思いです。

町田
 授賞式の司会進行も全部、書店員さんですもん。会場に行った時、本当に自分たちで運営しているんだってびっくりしました。

凪良
 私が受賞した回(2020年)はコロナ初年度で、1回目の緊急事態宣言と丸被りしてしまったために、授賞式はなく配信で結果が発表されただけでした。受賞の言葉も、ビデオで撮ったものを流してくださっただけだったんです。それがあの当時、実行委員の皆さんにできる精一杯で、とても感謝しています。でも当日は静かに、自分の部屋でやけ酒を飲んでいました……。嬉しかったような悲しかったような、複雑な気持ちでした。

町田
 私は次の年の受賞だったんですが、会場はこれまでとは違ったものの授賞式はあったんです。そこでお会いした実行委員の書店員さんが、「いつか凪良さんを会場にお呼びして改めて表彰したいです」と仰るから「私、紙吹雪撒きますよ!!」と話しておきました。

凪良
 そんなふうに気にかけていただいていたなんて、嬉しい……。本屋大賞がいいなと思うのは、ノミネートされた10作はジャンルがバラバラで、恋愛があったりミステリーがあったり歴史ものがあったり、異種格闘技戦状態なこと(笑)。10作のうちのどれか一つは必ず、読者さんにとって気にいるものがあるはずです。読者さんとリアルで接する書店員さんたちが作っている賞だから、読書に普段慣れていないとかあまり親しみがない人でも、読みやすいものがノミネート作に選ばれている気がします。「読んで絶対損はさせない」「ちゃんと面白い本を」という基準がブレずにあるような気がして、そこが素敵だなと思っています。

町田
 読書の入口になれる10冊が毎年選ばれていると思うんですよ。本を読みたいけど何から読めばいいか分からないとか、最近離れていた読書をもう一回楽しみたいという人は、本屋大賞のノミネート作の中から選ぶといいんじゃないかなと思います。それが自分の一冊だったらもちろんありがたいんですが、他の方の本を読んで「小説ってやっぱり面白い」と思ってもらえたなら万々歳です。

凪良
 個人的に自分の作品が「読みやすい」と言われると、「文学的ではない」と言われているような気がしてちょっとコンプレックスでもあるんです。でも、たまに読者さんから「今まで小説をあまり読んだことなかったんですけど、凪良さんの小説は読みやすくて楽しかったので、あれから読書をする機会が増えました」という感想をもらえると、自分がやっていることは間違っていないなと思えます。町田さんがおっしゃられたように、自分の本が読書の入口になるんだとしたらすごく光栄だなと思うんです。

町田
 読書の入口になることで十分だと私は思っています。そこからどんどん読書の深みというか、沼に落ちていけばいいなと思うので。

凪良
 いきなり深い沼に入ったら危険ですからね(笑)。浅いところから徐々に入っていって、慣らして、ゆっくり潜っていただければと。「小説、面白いな」と思ってもらえたら、それが一番の大勝利なのではないかと思います。

 


凪良ゆう(なぎら・ゆう)
京都府在住。2007年にBL作品にて本格的にデビュー。17年、『神さまのビオトープ』で一般文芸に進出。19年刊行の『流浪の月』で「2020年本屋大賞」を受賞。21年、『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。22年刊行の『汝、星のごとく』で直木賞、吉川英治文学新人賞候補。同作で本屋大賞3度目のノミネートとなる。

町田そのこ(まちだ・そのこ)
福岡県在住。2016年「カメルーンの青い魚」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。17年、同作を含む短編集『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュー。『52ヘルツのクジラたち』で「2021年本屋大賞」を受賞。同作と『星を掬う』に続き、『宙ごはん』で3年連続の本屋大賞ノミネート。最新作は『あなたはここにいなくとも』。

(構成/吉田大助 写真/森 清〈凪良ゆう〉、藤岡雅樹〈町田そのこ〉)
〈「STORY BOX」2023年3月号掲載〉

※前回の対談はこちらからお読みいただけます。

 

◎編集者コラム◎ 『嘘と聖域』ロバート・ベイリー 訳/吉野弘人
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