『水車小屋のネネ』津村記久子/著▷「2024年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
水車は回りネネは歌う
1981年から2021年まで、40年にわたるある姉妹と1羽のヨウム「ネネ」の長大な物語です。刊行から1年以上経ちましたが、途切れなく読まれていて、よくここまでこられたなあと、津村さんと話しています。
ずっと前から水車小屋に興味があったという津村さん。水車は究極のエコシステムかもしれません。その土地の川の流れで何十年、何百年もはたらき続ける、機能美のようなものが本作に作用している気がします。いつか飼いたいと思っていたヨウムの小説の構想も長年温めていたそうで、2つの主題が組み合わさった新聞連載小説でした。
北澤平祐さんの挿絵も人気で、できるだけ挿絵を入れたいという津村さんの希望があり、北澤さんには装画もお願いして、絵のたくさん入った1冊になりました。
刊行後は、「本の雑誌」が選ぶ2023年上半期ベスト第1位、第59回谷崎潤一郎賞を受賞、「キノベス!2024」第3位にも選ばれました。
40年の歳月はネネの長寿あってのもの。ラジオから流れる音楽を口ずさみ、みんなが話す言葉を覚え、突然鋭い一言を放ったり。本当に大活躍のネネです。読み終えてネネロスになったという感想をたくさんいただきました。ロックからクラシックまで登場する曲の数々は時代を彩る素晴らしいセットリストです。
「自分はおそらく、これまでに出会ったあらゆる人々の良心でできあがっている」
親元から離れ、山間の町にやってきた姉妹を見守る人々は、みな優しくて温かいですが、自分のできる範囲の善意をもって2人に接します。過剰なもので包み込もうとしない、地に足のついた人々の聡明な態度は忘れられません。良心を受けとって成長した主人公が、また誰かに受け取ったものを引き継いでいく、そのサイクルのありようは強く心に残ります。
「誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ」
この愛おしい物語をぜひご一読ください。
──毎日新聞出版 書籍本部 永上 敬
2024年本屋大賞ノミネート
『水車小屋のネネ』
著/津村記久子
毎日新聞出版
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