ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第127回

「ハクマン」第127回
ネームをたくさん描いても
収入という意味では
紛れもなく無職である。

昨日、確定申告の完了書類を税理士のところに取りに行き「よく続きますね」という意外と廃業しないことに対してお褒めの言葉をいただいた。
去年からインボイス制度も始まり、さすがにもうダメだろうと思われたかもしれないが、それは今のところ出版業界の努力により回避されている。

漫画家も2月から3月にかけて、他の個人事業主と同じく確定申告の必要があるし、お盆進行や年末進行など、世間一般の都合に巻き込まれることもあるのだが、それ以外だと季節感もなければ「区切り」もあまり存在しない。

一般企業であれば、3月に決算、4月に新入社員が一斉に入り、5月に1割退社、2割休職、2年に1回法廷にまで出る奴が出現、という流れが毎年お馴染みになっていると思うが、漫画の場合、4月に一挙新連載が始まるわけでもない。

中途半端に呪われし6月とかに開始することもあるし、終了もキリ良く12月や3月までやる、などということもなく、11月など年を越させる気がない時期に突如終わったりする。

自分で引退を決められるプロ野球選手は一握りであり、球団からの戦力外通告という形でクビを宣告される選手の方が圧倒的に多いという。
その中から、結婚間近、子どもが生まれたばかり、妻が妊娠中という条件を満たしたものが「プロ野球戦力外通告・クビを宣告された男たち」に出演、という単発仕事を得るが、大半がそれもなく、そのまま引退する者も少なくない。

それと同じように漫画も、構想を全て描き切り、己の判断で最終回を迎えられる作品はそう多くはなく、私など最初から1巻分だけと決まっていた作品以外全て打ち切りで終了している。

潔い作家であれば、先方から終了を告げられなくとも、この作品に先はないと判断し自ら終了を申し出ることもあるだろう。
しかし私は、相手が間違っていても、鬼をヘッドハンティングしたかのように指摘するような真似はしない、奥ゆかしい人間である。

よって出版社側が私の連載が過ちであることに気づくまで、黙って描き続ける。
その結果、自決や切腹すら許されず、ただの打首獄門みたいな最終回になってしまうこともしばしばだ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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