採れたて本!【デビュー#27】

採れたて本!【デビュー#27】

 公募新人賞は、賞によってそれぞれ重視するポイントが違う。特定ジャンルを対象とする賞はとくにその傾向が強く、単純にいちばん面白い作品が正賞を受賞するとはかぎらない。

 第12回ハヤカワSFコンテストの優秀賞を受賞した本書、カリベユウキ『マイ・ゴーストリー・フレンド』もその典型的な例。今回の同賞は、ひと足早く刊行された2作、カスガ『コミケへの聖歌』と犬怪寅日子『羊式型人間模擬機』が大賞を分け合うかたちになった。しかし、その3作を読みくらべてみて、エンタメ的な面白さでは『マイ・ゴーストリー・フレンド』がトップだと思う。

 いくらか衒学的だったり情報量過剰だったりするきらいはあるものの、SF的な理屈のコネ方も、実在の地名の使い方も、キャラクターの描き分けも、中盤以降のシスターフッド展開も、(続編の可能性を残す)ラストの幕の引き方もたいへん優秀。横溝正史ミステリ&ホラー大賞でも創元ホラー長編賞でも、あるいは『このミステリーがすごい!』大賞でも、おそらくかなりの確率で大賞を獲れたんじゃないですか。

 なのになぜ、このハヤカワSFコンテストでは(次点にあたる)優秀賞に甘んじたのかと言えば、結局のところは、小説のルックがあまりにもホラーど真ん中だからだろう(推測)。いや、こういうSFもあるんだと強く主張したいが、その一方、実際問題、作品の売り方としてはSFを前面に出さないほうが正解のような気もする(だったらますますSFの賞に応募しないほうがよかったのでは……)。

 
 というわけで、本書はSF読者よりもむしろ、ホラー好き、エンタメ好きの人に広くおすすめしたい。澤村伊智『ぼぎわんが、来る』とか、最近の作品で言えば、創元ホラー長編賞を受賞した上條一輝『深淵のテレパス』(奇しくも同書の山場に出てくる早稲田近辺が本書の主舞台になり、同じ箱根山も登場する)の系列。
 

 主人公は、そこそこ美人だし努力もしているのになぜか芽が出ない女優の卵・町田佐枝子(28歳)。オーディションに落ちまくり、挙げ句の果ては騙されてAVの撮影現場に送り込まれ、からくも脱出したものの、事務所を辞めてお先まっ暗。と、そんな矢先、顔見知りのホラー映画脚本家とばったり出会い、新作映画の仕事をオファーされる。二つ返事で引き受けたが、それは演技ではなく、ドキュメンタリーの仕事だった。

 作品の舞台は、早稲田大学キャンパスの近くにある広大な(架空の)団地。その建物の階段や廊下にまるで大蛇が這ったような痕跡があり、さらには行方不明者も出ているらしい。次々に怪異に襲われる団地。ついてはレポーターとして、現地でその怪異を取材してほしいという。問題の団地には、すでに撮影拠点となる部屋も用意され、好きなだけそこに寝泊まりできる。

 言われるがまま団地のその部屋に泊まった佐枝子は、翌朝、カメラマンをつとめる真野友平(ピンチヒッターで急遽駆り出された、映画研究会に所属する大学生)と落ち合い、さっそく取材をはじめる。

 男女漫才コンビみたいなテンポのいいやりとりを軸に話は進み、二人は団地のあちこちで怪異らしき現象を次々に見聞きする。きわめつきはG棟の409号室。10年ほど前に起きた殺人事件の現場で、行くと呪われるというのだが、いざ中に入ってみると、そこの浴室には、ヌメリを帯びた無数の黒いウロコがびっしり貼りついていた……。

 
 ……と、このあたりで全体の2割ほど。その後、近所のファミレスでウェイトレスのバイトをしているおかっぱ頭の女性・春日ミサキがエクソシスト的な役割で物語にからみ、怪異の背後にあるギリシャ神話のモチーフがしだいに浮上してくる。

 ギリシャ神話の見立てとか、本格ミステリならいくらでもありそうだが、ホラーではけっこう珍しい。なぜこの団地でギリシャ神話っぽい怪異が頻発するのか。

 その謎解きをめぐって積み重ねられていく奇怪にして壮大なロジックも読みどころ。全体にコミカルな雰囲気をまとっているのに、怪異も論理もけっこうガチで、そのへんのミスマッチ感も面白い。

 ギリシャ神話ネタだけでなく、秋からのNHK朝ドラ「ばけばけ」をにらんでかどうか、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)がらみのネタも投入される。というか、実はタイトルからしてラフカディオ・ハーンと密接な関係があるのだが、それは読んでのお楽しみ。

 脇役含め、キャラクターもたいへんチャーミングなので、ぜひシリーズ化してほしい。

マイ・ゴーストリー・フレンド

『マイ・ゴーストリー・フレンド』
カリベユウキ
早川書房

評者=大森 望 

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