劇団四季「ロボット・イン・ザ・ガーデン」上演記念 キャスト特別座談会〈成長しあう喜び〉vol.2
現在、再演中の劇団四季オリジナル・ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。ベン役の田邊真也さんと山下啓太さん、エイミー役の鳥原ゆきみさんと岡村美南さん、タング役の長野千紘さんと安田楓汰さんの特別座談会の第2回。今回は、原作小説を読んだ時の感想と、役作りで参考になった部分などについてお聞きしました。
細かい心の機微が描かれている原作
――東京再演から出演されている山下さん、岡村さん、安田さんに質問です。原作を始めて読んだ時の感想、また役作りの参考にされた部分があれば教えてください。
山下
僕は劇団四季が『ロボット・イン・ザ・ガーデン』を上演すると決まった時に初めて手にして、ひと晩で一気に読み終わってしまったんです。
いい意味で漫画に近いというか、物語の風景が想像しやすく心に残ったので、人に会うたびに「よかったよ」と薦めるくらい大好きな作品になりました。
役作りの際にも、台本には書いていない細かい心の機微まで綴られているので、頼りにする部分が多かったです。
芝居ではベンは思いやりや優しさが際立った人ですが、小説では心の声で「くそったれ」と言ったり、意外に口が悪い部分も描かれていたりして。そういった違いが面白いなとも思いました。読む人や読むタイミングによって、異なる印象を持つ物語だとも感じます。
岡村
読後の第一印象は、まずタングがカワイイというのと、登場する3人の女性(エイミー、ベンの姉でエイミーの親友のブライオニー、ベンが旅先のアメリカで出会うリジー)がみな現代的で、自立していて、すごく素敵だと思いました。
原作では心理描写や夫婦の会話のやりとり、過去にあった出来事などが描かれていて、私もエイミーの役作りをするうえで助けになりましたね。
安田
小説ではタングの気持ちは、身体の動きで表現されている場合が多いんです。例えば「足をジタバタさせる」とあるけれど、それは喜んでいる時も、怒っている時も同じで。
表現が一緒というのは舞台でも同じで、ベンの横に立っている時に同じ表情をしていても顔への光のあたり方や雰囲気で、怒ったように見えたり、笑って見えたりする。だからお客様がどう感じるか、そこに委ねる演技が必要なんだとわかりました。
演技に迷った時ほど小説の〝原石〟に立ち返る
――初演から出演されている方たちは、改めて原作に対する気づきはありましたか。また演技の参考にしたところがあれば教えてください。
田邊
初演の時は小説から得るものがとても多かったです。ベンの心の機微や叫びを知って、役作りではそこを膨らませていく作業をたくさんしたんです。最初に原作を読んだ時の原石みたいな言葉で、自分なりのリアリティをどんどん膨らませていく感じで。
ただ、そういう作業をすると膨らみが役の深みになる場合もあるけれど、逆に自分が意図していない思いがけない方向に行ってしまうこともある。やりすぎたり、垢のようなものがついてしまったり。
そのことに自分で気づいた時に、原作をもう1回読んで原石に立ち返るということがよくあります。迷ったり、違うなと思った時ほど原作を読みますね。そうやってたくさん悩み、たくさん考えたうえで、最終的にはシンプルに演じられるのが理想的です。
鳥原
私は最初読んだ時は、エイミーって小言が多いなと思ったんですよ(笑)。でもそれはベンも全然負けていなくて。「ゴミ捨てしてるつもり? 2週間に1回よ」とか、〝男女あるある〟がたくさん描かれているな、と。
やはり初めはエイミーの意見や気持ちに同じ女性として共感したんですが、今回、再演するにあたって久々に読んだら、エイミーは本当にベンのことが好きなんだなとわかりました。好きすぎて、口うるさくなってしまっている感じがまたすごく愛おしいな、と。読み終わった後に私も改めて、ベンのことを好きになっていて、それくらいベンって魅力的なキャラクターだなとも思いました。
小説はシリーズもので全4作品ありますが、すべて読んでいてどれも大好きです。なかでも2作目の『ロボット・イン・ザ・ハウス』がお気に入り。子供が産まれて、従来の妻と夫だけでなく父と母という役割も加わって、物語が展開していきます。エイミーという女性を理解するうえで、それも役立っています。
長野
再演に向けた稽古が始まる前に原作を読み直したんですが、今、田邊さんの話を聞いて、「そうだ、悩んでいる時こそ改めて原作に立ち返ろう」と思いました。ずれていってしまったところもあるかもしれない、と気づくことができた。この対談があって本当によかったです!
先日、友達が小2のお子さんを連れて舞台を観に来てくれたことがありました。舞台を観て歌をやりたいとかダンスをしたいと言ってくださるお子さんは多いんです。でも、その子は「原作を読みたい」と言って本を買ったそうです。原作に触れてみたいと思ってくれたことが、なんだかすごく嬉しかったですね。
心の絆創膏のような温かい作品
――そういった原作とのかかわりを踏まえたうえで、今回の舞台を観る時のおすすめポイントを教えてください。
山下
僕の知り合いが観劇した際、小学校で転校して誰も知らない町に行った時に話しかけてくれた男の子を不意に思い出したそうです。そんな、自分の日常とか人生の温かさを思い出すような物語です。
鳥原
そう。すごく身近なことや生活のなかの繊細なやりとりが描かれている作品ですよね。小さな種をお客様それぞれの心のなかに芽吹かせるような物語なので、その小さな種を皆さんに持ち帰っていただければと思います。
長野
私は自分の抱えている悩みとか欠点、それさえも自分自身なのだと受け入れて、明日を生きる大切さを気づかせてくれる物語だと感じています。生きているだけですごいことだと思える心の絆創膏のような作品ですので、ぜひ劇場でご覧いただきたいです。
*たのしい座談会はまだまだつづきます
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(文・構成:鳥海美奈子、撮影:阿部章仁)