スペシャル企画 池井戸 潤さん『ロボット・イン・ザ・ガーデン』劇団四季ミュージカル観劇記

劇団四季「ロボット・イン・ザ・ガーデン」

 3月に大盛況のうちに東京公演を終えた劇団四季オリジナルミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(原作は小学館文庫)。今日(4/29)の福岡公演開幕を記念し、演劇をこよなく愛する二人の作家が劇団四季の会報誌「ラ・アルプ」に寄稿した観劇エッセイを、2日間に渡って特別公開します!
 第1弾は「ラ・アルプ」に連載を持つ池井戸潤さん。予備知識なし、白紙の状態で劇場に入ったという池井戸さんは――


劇団四季会報誌「ラ・アルプ」2020年11月号より
「池井戸潤の劇場で会いましょう」No.47

 劇場が再開されてから、また暇を見つけては足を運ぶようになった。入場制限された客席はどの芝居にいってもひとつおきで、両隣は空いたまま。赤字になってないか心配してしまう。

 それでも、芝居の幕を開けてくれるのはファンにとって何事も代えがたい喜びである。幕が開いてこその芝居だ。舞台があって役者がいて、客がいなければならない。

 新型コロナの緊急事態宣言で劇団四季もすべての公演がキャンセルになって、この7月14日には初日を迎えるはずだった、『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』も延期された。この日は浅利慶太さんの命日の翌日でもあると同時に、待ちに待った新劇場であるJR東日本四季劇場[秋]のこけら落とし公演でもあったから、劇団四季の皆さんだけではなく、楽しみにしていたファンの落胆ぶりも想像に余りあるものであった。そして9月には[春]劇場のこけら落とし公演となるはずの『アナと雪の女王』もまた延期に。

 だが、かつて経験したこともない困難な時期に、劇団四季はただ身を屈めてこの災難が去るのを待っていたわけではなかった。

 ピンチはチャンスとばかりに前を向き、新作を準備していたのである。しかもそれは、台本、演出、そして音楽までもオリジナルのミュージカルなのであった。

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。劇団四季にとって、実に16年ぶりとなる一般向けオリジナルミュージカルである(ファミリー向けには、昨年『カモメに飛ぶことを教えた猫』を上演)。

 10月3日、自由劇場。吉田智誉樹社長はじめ劇団四季のスタッフの皆さんが盛大にお客さんを出迎える中、そこには初日ならではの華やかさと、緊張感のあるムードが漂っていた。

 この新作について、ぼくはなんの予備知識もなく出かけた。原作も読まず、実はチラシの裏に書かれたストーリー紹介さえも読まなかった。ミュージカルであることすら知らなかったぐらいだ。

 その時点でぼくが知っていることといえば、ただ、ロボットの話だということだけだ。

 予備知識なしの白紙の状態で幕が開き、「ああ、こういう話なのか」、と始まってすぐ驚かされた。そこは近未来のイギリス。アンドロイドが人間並みに進化した社会が舞台だったからだ。

 両親の事故死以来、何も手につかずパッとしない生活を送る主人公ベンと、その妻で敏腕弁護士であるエイミーは離婚の危機にある。そんな隙間風が吹き始めた夫婦の間に迷い込んできた一体の旧式ロボット・タング。夫婦の問題、挫折と再生の物語が、ハートウオーミングなタッチで演じられる。

 劇団四季は、この『ロボット・イン・ザ・ガーデン』により、16年間の沈黙を破って一歩を歩み出した。それはタングの登場によって新たな人生を踏み出すベンの姿と重なって見える。最初は戸惑い、手探りの一歩でも、その先にはきっと明るい未来が開けているはずだ。

 

池井戸潤さん

池井戸 潤(いけいど・じゅん)
作家。1963年岐阜県生まれ。慶応義塾大学卒。『果つる底なき』で江戸川乱歩賞、『下町ロケット』で直木賞を受賞。「半沢直樹」シリーズ最新作、単行本『半沢直樹 アルルカンと道化師』(講談社刊)が発売中です! 探偵・半沢が、とある絵画の謎に挑みます。お馴染み浅野支店長も登場です! 

(池井戸さん写真/国府田利光 舞台写真/山之上雅信)


劇団四季 福岡公演
4月29日(木・祝)よりスタート!
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デボラ・インストール
訳/松原葉子

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