今月のイチオシ本 【ミステリー小説】

『大聖堂の殺人 ~The Books~』
周木 律
講談社文庫 本体1040円+税

 周木律のデビュー作『眼球堂の殺人 ~The Book~』(第四十七回メフィスト賞受賞作)刊行から早六年。ついに「堂」シリーズが、第七弾『大聖堂の殺人 ~The Books~』で大団円を迎えた。

 二十四年前、すべての事件を操る天才数学者──藤衛が四人の数学者たちを、焼死、凍死、刺殺、撲殺により葬ったとされるも、後にアリバイを主張して無罪となった『大聖堂の殺人事件』。現在、北海道の孤島──本ヶ島に聳え立つ巨大な「大聖堂」は、刑務所から出所した藤衛が再建したもので、そこでふたたび当時の惨劇を繰り返すような不可解な事件が発生する。しかも、またしても藤衛には、犯行時刻に遠く襟裳岬で講演を行なっていたという鉄壁のアリバイが……。

 シリーズ当初は、異形の建築家──沼四郎の手による奇妙な「堂」で起こる不可能犯罪に"放浪の数学者"十和田只人が毎回挑むという、綾辻行人「館」シリーズの流れを汲んだ理数系本格ミステリーかと思われた。ところが、そうした定番の展開からは早々に道を外れ、常人の理解を超えた「天才数学者」という異能者たちの戦いが次第に際立ち、なにが起こるか油断のならない緊迫のシリーズへと変貌していく(とくに第五弾『教会堂の殺人 ~Game Theory~』におけるシリーズ継続も危ぶまれるほどの衝撃的なサプライズには仰天!)。

 本作では、いよいよ宿敵である藤衛との直接対決となり、仕掛けの規模も破格のレベルに。大スケールにもほどがある、まさに驚天動地というしかない奇抜な真相は一読の価値ありだ(作中に「リーマン予想」等が出てくるが、ご存知でなくとも問題なく愉しめる)。とはいえ、そうした突き抜けた面ばかりが読みどころではなく、人間のたゆまぬ真理探究を尊び、読者が思いを馳せたくなるような澄んだ結末もまた、じつに忘れがたい。

 本作によって見事な完結を果たした「堂」シリーズは、今後日本の本格ミステリー史を振り返る際、「館」ミステリーとしても理数系ミステリーとしても無視することのできない重要なシリーズとなったことは間違いない。

(文/宇田川拓也)
〈「STORY BOX」2019年5月号掲載〉