今月のイチオシ本【警察小説】

『冷たい檻』
伊岡 瞬
中央公論新社 本体1,900円+税

 警察小説の舞台で一番多いのは東京。では一番少ないのは? そういう統計があるのかどうか知らないので回答は不能だが、日本海側のどこかなのではないだろうか。冬は犯罪発生率が低そうだし、そもそも元から治安がよさそうだ。

 そんな平穏な地でもしかし、思わぬところに悪ははびこる。北陸地方の架空の村を舞台にした本書は、まずその舞台設定に注目だ。

 夏の暑さが残る九月後半、岩森村の海辺にある青水駐在所に、県警本部警務部から派遣された樋口透吾という調査官がやってくる。島崎智久巡査部長の前に現われたのは警察官らしからぬ風体の男。一ヶ月前に忽然と姿を消した、島崎の前任者・北森益晴巡査部長の調査のためらしい。樋口は不審船による密輸や拉致を疑っているようだった。公にはされていないが、北森は公安の人間だったのだ。

 村の八割がたは農耕地と山林、一〇年前に出来たショッピングセンターも閉鎖状態で、村の中はわびしい限り。他に海に臨む高台に複合型ケアセンターの「岩森の丘」があり、前日そこで老人が一名事故死していた。特に事件性はないと見られたが、施設を運営しているのは中国の製薬会社。どうやら北森はこの施設に関心を示していたらしい……。

 生真面目な島崎と海千山千の樋口の凸凹コンビが村のあちこちを調べて回る序盤はコミカルな演出も見られ、取り立てて危険な雰囲気はない。だが、ふたりの調査と並行して、施設の人々の行状も描き出されるようになると、次第に不穏な空気が立ち込め始めるのだ。

 何故か静か過ぎる混合型介護付有料老人ホーム「かもめ」、悪を退治する"アル=ゴル神"信仰が流行る民間児童養護施設「にじ」、そして剣呑な輩が跋扈する一八歳から二〇代までを対象とした青年の家「みらい」等々。

 警察小説としては、実は樋口は警察の人間ではなく、その外部機関「組織」の一員というところがユニーク。長篇『代償』以来、悪党描写にも力を入れ始めた著者だが、本来のハードボイルドなタッチも存分に活かされた快作だ。

(文/香山二三郎)
〈「STORY BOX」2018年11月号掲載〉