翻訳者は語る 松原葉子さん

連載回数
第7回
松原さん

 昨年六月の刊行からじわじわと版を重ねている英国発のヒット作『ロボット・イン・ザ・ガーデン』(小学館文庫、デボラ・インストール作)。主人公は「やだ」を連発するイヤイヤ期の男の子のようなぽんこつロボット、タング。頑固なきかん坊が徐々に愛や思いやりを学び成長していく可愛さに、「タング・ロス」「続編希望」の声が相次ぎました。そして十一月、ついに続編『ロボット・イン・ザ・ハウス』が刊行。少し成長してお兄ちゃんになったタングと三十代の元ダメ男・ベンの、新たな家族の物語です。前作に続き翻訳を手がけた松原葉子さんに、お話を伺いました。

〈最初に原文を読んだ印象〉

 第一弾『ガーデン』の原書を最初に渡されたときはSFチックな作品を想像していましたが、読んでみると、タングとベンの心のふれあいやそのなかでのそれぞれの成長、ベンが癒やされていく過程などを丁寧に描いた、とても温かい作品だと思いました。

 とにかくタングが可愛くて。読者の方と同じように私自身もタング・ファンになり、タング・ロスを味わっていたので、続編でタングはどうなっているだろう? と楽しみで仕方ありませんでした。

 第二弾の『ハウス』を読んで「デボラさんは人が好きなんだな」と改めて感じました。「こういう人、いる」という登場人物ばかりで、全員に温かい視線が注がれている。家族の日常のさりげないシーンを丁寧に積み重ねていて、前作同様心地よく読みました。

 

〈ベンとタングの成長〉

 ベンと(元妻の)エイミーが、タングを自分たちの子どもとして受け入れて、子育てを通して親として成長していくのがいいですよね。ベンがタングに「・本・って何?」と聞かれる場面があります。ベンとエイミーは(娘の)ボニーには読み聞かせしているのに、タングには本の楽しさを教えていなかった。「私たち、ひどい親かしら?」と悔やんで、すぐに書店に連れて行くのですが、このシーンがとても好きです。

 タングはやっぱりすごく可愛かったし、お兄ちゃんになりました~(笑)。前作では主にベンと一対一の関係でしたが、今回は「妹」のボニーや新たなロボット、ジャスミンも加わります。比べられる対象が出てきて、やきもちを焼いたりしながらも思いやりの心を育てて、二人を守ろうとする姿に成長を感じました。

 

著者との共同作業

 

〈翻訳をしてみて〉

『ハウス』は日本が本国より先行しての刊行だったため、原文が完成原稿になっていませんでした。デボラさんは最初から順を追ってではなく、各シーンを前後しながら書くそうで、そのため話の順番や辻褄が合っていない部分などが時々あり、それをチェックしてデボラさんとやりとりし、修正していく作業が大変と言えば大変でした(笑)。でも、デボラさんもすぐに対応してくれましたし、やりとりも楽しかったです。

 あとは新ロボットのジャスミン。タングは見た目もわかりやすくて登場したときから可愛く感じたのですが、ジャスミンは「黒い球体」とあり、最初は「どうしよう、可愛さがわからない」と(笑)。でも翻訳を進めるうちに、ロボットらしく律儀すぎて融通がきかないけれど、人と接して心が揺れてくる彼女にどんどん愛着が湧いてきました。ジャスミンはしゃべり方もきっちりしているけれど、どこかあったかみがある。それを日本語でうまく表現できただろうか、と今も少しドキドキしています。

 

〈翻訳家を志したきっかけ〉

 最初に「本って面白い」と思ったのは、小学四年生の時。当時父の仕事でイギリスに住んでいて、日本人学校に入ったばかりでした。初めて図書室で本を借りて読むという体験をしたのですが、小さなページを開いただけで、全く違う世界に一瞬で行けてしまう。翻訳されると知らない文化に簡単に触れられることも、新鮮であり驚きでした。日本の大学に入って将来の仕事を考えた時にふと思い出したのが、その時のことでした。せっかく海外で暮らす機会があったのだから、日本の方が海外文学に触れるお手伝いができたら素敵だなと思ったんです。卒業後は働きながら夜間の翻訳学校に通ったり、翻訳家の先生が開く勉強会に参加して翻訳を学びました。

 これからも日本の読者が異文化に触れるお手伝いができたら、と思っています。

 

(構成/皆川裕子)

 松原葉子(まつばら・ようこ)

 大阪生まれ。国際基督教大学卒。訳書にB・バウアー『ブラックランズ』、B・レイマー『レイ・ザ・フェイバリット』など。