週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.51 TSUTAYA中万々店 山中由貴さん

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リリアンと燃える双子の終わらない夏

『リリアンと燃える双子の終わらない夏』
ケヴィン・ウィルソン 訳/芹澤 恵
集英社

 並んでいる本に目がいって、なんだこれ!と思わず声をあげてしまうことがある。本の厚さやデザイン、表紙や帯が異彩を放っているもの。人によって釣られるポイントはちがっても、なんだこれ!と一度立ち止まったらその本のことが気になって気になって、つい買ってしまっていた…なんていう経験、本好きなら日常茶飯事ではないだろうか。わたしは…いわずもがな、だからこそ今回はそんな出合いをした本をご紹介しようと思う。

 いやまずもうタイトルの意味がわからない。そこが目を惹かれたいちばんのポイントだった。『リリアンと燃える双子の終わらない夏』…燃える双子って強烈すぎんか…。表紙イラストなんか、顔が炎。かわいらしいけど炎。そのうえ帯文句はこう。「リリアン28歳、人間嫌い。自己肯定感はかなり低め、将来への希望もない。そんな彼女が旧友から世話を頼まれた10歳の双子は、興奮すると〈発火〉する特異体質だった!?」
 なんだこれ!と思った。で、買ってしまった。で、結果めちゃくちゃ最高なのである!!!

 物語の主人公はリリアン。その口の悪さと諦観したような性格に一瞬で心奪われた。冒頭たった数ページでわかってしまった。ああ彼女が好きだ。ああ絶対にこの小説は裏切らない。
 翻訳も抜群にいい。リリアンのチャーミングな語り、そこから生まれる明るさや軽妙さがたまらなく心地よい。魔法にかけられたのかと思うほど、つぎの文章を欲するようになる(なにをおおげさな…と思う人ほど読んだらメロメロになるはずだ)。
 リリアンはおそるおそるながら、前述の帯文句のとおり体から火を放つという双子の姉弟、ベッシーとローランドと対面する。そこからが見もので、人体の〈発火〉という強烈な現象を目の当たりにして怯み、一度はこんな仕事できっこない!とかなんとかいうくだりがあるんだろうという予想をまったく無視した、痛快きわまりないリリアンのペースに、読者は巻きこまれていくのだ!
 こんな特殊設定のへんてこな家族小説なかなかない。それに、リリアンと双子が少しずつ絆を深めていくさまを追う読書は、王道のパターンとはいえやはりとても楽しい。ほかの登場人物もみんなそれぞれ魅力的で、こうなるともう物語まるごと愛おしいったらない。読んだらきっとだれもがにこにこになってしまうだろう。
 彼らが心にすっかり棲みついたころ、物語は予想もつかないほうへ急速に舵を切ってゆくのだけれど、それはどうか本を手にとってのお楽しみということで。

 

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マット・ヘイグ 訳/鈴木 恵
ハヤカワ・ミステリ文庫

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 特殊設定の家族小説をもうひとつ。主人公は数学者の身体を乗っ取った異星人。その戸惑いに地球人・・・のわたしたちはぷっと吹きださずにいられない。なぜか懐きはじめた愛犬、冷めきっていたはずの妻や息子とのふれあいがたまらなくキュートだし、最後に登場する父から息子への手紙がすばらしく美しいから、全地球人に読んでほしい…!
※編集部注:紹介の本は、現在、書店及び電子書籍で購入できないことをご了承ください。

 

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