あの作家の好きな漫画 第4回 浅倉秋成さん

あの作家の好きな漫画 浅倉秋成さん

『六人の嘘つきな大学生』が話題! 小説だけではなく「ジャンプSQ」で「ショーハショーテン」の漫画原作も手がけ、伏線の狙撃手との呼び声も高い浅倉秋成さんに漫画遍歴を聞いた。


 小さい頃から様々な媒体の物語を楽しんできましたが、純粋に嗜んだ量だけを比較するのであれば、多い順に「アニメ」「漫画」「映画」「小説」となっていると思います。幼い頃から圧倒的なアニメ&漫画っ子でした。原因は「小説はきっと難しいに違いない。私のような阿呆にはとても読めない」という無用な先入観のせいだったわけですが、せっかく漫画の話をさせていただけるとのことなので今回は小説との出合いについては割愛。

 面白い漫画、オススメの漫画、大好きな漫画――どの切り口で挑んでもこれという一作を選びきる自信がないので、小学生~大学生にかけて、それぞれの年代で思い出深かった漫画を思いついた順に紹介させてください。

◆小学生:「オバコブラ」(園田ともひろ)

オバコブラ

『オバコブラ 1』
園田ともひろ

 月の小遣いが数百円だった小学生にとって漫画本を買うという行為は、不動産売買に匹敵する緊張感を孕んでいました。小銭を握りしめ地元の小さな古本屋に友人数名と駆け込み、どの漫画を買うか慎重に吟味します。今ならネットを参照すれば作品の方向性や評判も概ね掴めるのですが、いかんせん時代は平成初期。表紙の雰囲気だけで面白そうか否かを見極めねばなりません。その分、買った漫画が面白ければ無上の喜びがありましたし、友人一同からも「お前センスあるな!」と漫画ソムリエとしての称賛を浴びることができました。

 そんなとある日、幼い私が手に取ったのが本作でした。「俺はこれでいく」。結論から言うと、私は称賛を浴びました。「オバコブラ」という名前のどう見てもオバさんにしか見えない女子高生が主人公に据えられたギャグ漫画で、下品さとワードセンスのバランスが見事で何度も腹を抱えて笑いました。「お前、いい漫画選んだな!」友人からの称賛の言葉と共に、本作は未だに実家の本棚に大切にしまってあります。実は拙著の中でもほんのりと触れた箇所があるので、ご興味のある方はぜひ探してみていただければ。

◆中学生:「20世紀少年」(浦沢直樹)

20世紀少年

『20世紀少年 1』
浦沢直樹

 連載開始からは追えなかったのですが、その存在を知ってからはあっという間に虜となりました。今でこそ「伏線の狙撃手」という恥知らずな二つ名をいただいている私ですが、伏線が回収される喜びを最初に教えてくれたのは間違いなく本作でした。あまりに有名な作品なので詳細をくどくどと語ることはしませんが、なんてったって1巻で描かれている謎のコマによる伏線が、連載開始から7年の時を経た22巻でようやく回収されるんです。小説の1ページ目で張られていた伏線がラストの1行で回収されるというのももちろん最高に気持ちいいのですが、やはり連載を追い続けた時間の積み重ねがある分、感動は二倍にも三倍にも膨れ上がりました。漫画でしか味わうことができない、まさしく熟成された伏線の回収体験をした貴重な作品です。

◆高校生:「ユートピアズ」(うめざわしゅん)

ユートピアズ

『ユートピアズ』
うめざわしゅん

 とびきり気の利いた譬え話のおかげで、問題の本質が途端に理解できた――というような体験は誰にでもあるのではないでしょうか。「なるほど……そう言われてみると、確かにそうかもしれない」。別に説教臭いわけでも、何かしら強いメッセージ性がある漫画というわけでもないんです。でも不思議なくらいに味わい深い。一つだけボタンを掛け違えた世界を描くだけで、逆説的に我々の住む一見して平和に見えるこの日常に強烈なスポットライトが当たる。「女王様見習いに調教される小学生の話」「世界はすなわち『亀』であると見破った男性の話」「人を憎んでしまう症状を発現する『ヘイトウィルス』が発見された世界の話」。どれもが新鮮でとびきりの皮肉とユーモアに満ちている傑作短編集でした。俺は今、ものすごい漫画を読んでいる――とんでもない興奮とともに、私もまた私にとっての「ユートピア」を妄想したのでした。

◆大学生:「バクマン。」(小畑 健、大場つぐみ)

バクマン。

『バクマン。1』
漫画:小畑 健
原作:大場つぐみ

 俺も表現者になりたい、きっとなれる、絶対になってやろう。そんな青臭い衝動に火をつけてくれたのは、他でもない本作でした。毎日毎日、絵の練習をし、きっと俺も漫画家になってみせるのだと愚直に奮闘した日々は、今となってはいい思い出です。

 やがて私は自身の画力の限界に気づいて漫画家の道を諦めるわけですが、よもやまさか時を経て小畑先生とお仕事をご一緒させていただけるとは、当たり前ですが夢にも思いませんでした。本作においては一種のスポ根モノとしてのマインドだけではなく、密かに「新妻エイジが連載を止めさせたい漫画とは?」という謎の扱い方において「ミステリ」として大変大きな気づきをもらいました。 物語という器を介した魂の継承は、今日も明日も、世界の至る所で巻き起こっている。そんな連鎖の中に身を置くことができる喜びを噛みしめながら、こりゃ手は抜けないぞと、毎日ひぃひぃ言いながら筆を走らせています……(笑)。

 


浅倉秋成(あさくら・あきなり)
一九八九年生まれ。二〇一二年に『ノワール・レヴナント』で第13回講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。著書に『フラッガーの方程式』『失恋覚悟のラウンドアバウト』などがある。最新作は『六人の嘘つきな大学生』。

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第166回
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