森本萌乃『あすは起業日!』

森本萌乃『あすは起業日!』

今日は木曜、あすは起業日!


 どんなに大きな仕事も、嬉しい仕事も、始まりはいつも何気ない連絡です。

 仕事の進捗を伝え合う無数の業務連絡や営業メールに紛れて、不意に届くメール。新しいものにめっぽう弱い私は、そんなメールを人生の好きなものランキングの一体何番目に書き込むんだろうと時々妄想したりします。

 胸がキュンとなる。

 この、胸の奥を物理的にグッと掴むような感覚、私には昔から分かるんです。

 いつか友人から、この言葉は比喩だと言われて驚き、以来、自分には一つ特別な能力があるように感じられて気に入っています。

 多分これも、人生の好きなものランキングの上位に入ります。

「森本さんの書いたものを読んでみたいです」

 ……キュン。

 あ、来たな。久しぶりに。

 編集者さんからのメールを開いた瞬間に思いました。

 小さな会社の代表として日々仕事をしていると、信じてもらうという機会って案外少ないものです。私が稟議の最後であることが多く、周りを信じたり励ましたりする役回りの方が自然と多くなる。あのメールに胸キュンした理由は、多分、根拠なく人に信じてもらうことの喜びを久しぶりに感じられたからだと思うんです。

 この気持ちが来た時は従うのみ。

 一瞬で挑戦したいと決めて、約1年半をかけて書き上げたのが初めての小説『あすは起業日!』です。

  

『あすは起業日!』の大枠は、昨年の夏に3ヶ月滞在したパリで固めました。
日々の仕事に追われ執筆が思うように進まないことに危機感を覚え、環境から整えようとあらゆる仕事を高速で片付け、鼻息荒く入国したパリ。

 自分の知らない言語を喋る街では、母国語がいつも以上によく聞こえました。パリで感じる言語の疎外感を全てぶつけるように、ラップトップに向き合って頭を振り絞る毎日。図らずもこの時間が、起業当初の孤独や不安感を再び呼び起こし、執筆活動を盛り上げてくれたようにも感じます。

『あすは起業日!』は、当初私小説の意味合いを強く持って書き始めたのですが、早々にエゴや自意識が邪魔をしてきたため方向転換。広義で使われるようになった〝スタートアップ〟というもはや実態のない言葉を、私が自分の手で握りしめたほんの一部くらいはしっかりと描きたいと思い、物語要素を強めました。

 そのため、登場する主人公が直面する壁や周囲の人々のエピソードは、驚くほどに私自身のものだったり、また驚くほどに私自身じゃなかったり。

 

 33歳の女性起業家、今私に書ける精一杯の11万文字。

 書き始めた当初は書き上げることが目標でしたが、気が付くと面白くしたい! とかもっと書きたい! とか、最終的には編集者さんと句読点の打ち方ひとつまで拘りながら夢中で挑戦できたことを嬉しく思います。

 人の全力の熱量ってそれだけでプラスの引力が働きます。

 だから酷評に怯えつつも声を大にして言いたい。

 ぜひ、読んでほしいです。

 いつも本を読む立場だった私が、今回書くことを通じて、より本を好きになれたことも大きな収穫です。どんな本にも、こうした苦悩の創作期間があることを知れたことは、私が今後、会社で書店業を続けてゆく中で忘れることはないでしょう。

 続きは本の中で、お目にかかれれば光栄です。

 


森本萌乃(もりもと・もえの)
1990年東京生まれ、株式会社 MISSION ROMANTIC 代表。新卒で広告代理店に入社後、外資系企業とスタートアップ二社の転職を経て2019年自身の会社を創業。本を通じた人との出会いを提供するオンライン書店・チャプターズは、オープンから2年で登録者延べ5,000名を超え、独身男女から新たな出会いの選択肢として注目を集める。趣味は旅先での読書。

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あすは起業日!

あすは起業日!
著/森本萌乃

◎編集者コラム◎ 『転がる検事に苔むさず』直島翔
吉川トリコ「じぶんごととする」 9. 「自分らしく」おしゃれするってなに?