# BOOK LOVER*第6回* 広末涼子
人生で悩んでいた時期は、いつも哲学の本を手に取っていた気がします。高校・大学時代は常にドラマや映画の台本を3、4冊持ち歩き、それぞれの物語に感情移入する日々でした。だからこそ、心をクールダウンさせてくれる何かを無意識に求めていたのかもしれません。人の心を揺さぶるストーリーの対極にあって、自分が言葉にできない感情に形を与えて、答えを見つけ出してくれる。それが私にとっての哲学の魅力です。
『暇と退屈の倫理学』を読んだのは、初めての著書『ヒロスエの思考地図 しあわせのかたち』の執筆中でした。「暇」と「退屈」、どちらもネガティブな印象がある言葉ですが、そのイメージを裏切ってポジティブな世界を見せてくれそうな予感がして興味を持ったのがきっかけです。
大昔の人からすると、あらゆることが便利になった世の中で暇や退屈を感じる現代人の悩みは贅沢なのかもしれない。でも、現代だからこその空虚感や欠落感もありますよね。暇と退屈を起点にして、そこから逆説的に何かに没頭することへの渇望や、人生の糧を探していく必要性が高い熱量で論じられていてすごく面白かった。時代が移り変わっても、目の前に問題を発見して、それに対応するための概念を生み出していく営みは普遍的なのかもしれません。
振り返ってみると、私はずっと「答え」が欲しくて哲学の本を読んでいた気がします。でも、40代の今は、「正解」にこだわる気持ちはあまりありません。全員に好かれなくてもいいし、完璧じゃなくてもいい。自分ができることをしていきたい。それが今の素直な気持ちです。
広末涼子(ひろすえ・りょうこ)
1980年、高知県生まれ。94年、芸能界デビュー。CM・ドラマ・映画を中心に幅広く活躍。哲学に興味を持つきっかけは14歳で読んだ『ソフィーの世界』。
『ヒロスエの思考地図 しあわせのかたち』
広末涼子 著(宝島社)カントからココ・シャネルまで、古今東西の賢人の言葉と、自身が体験してきた思い出を絡めて紹介する初のエッセイ集。「読んだ人全員には響かなくても、ごく一部の人に届けば十分。今の自分だから書けることを大切に、ペンを握って2年間向き合ってきました。読んだ後に少しでもポジティブになってもらえたら嬉しいです」(広末さん)
〈「STORY BOX」2022年6月号掲載〉