神戸遥真『チリケン』

小説家になるため、地理を学ぶことにした
中学時代から小説を書き始めた私は、高校時代に進路を考えた際「何を学んだら小説に役立つだろう」と考え、最終的に大学で地理学を学ぶことにした。今考えるとなんでそうなるのかと自分でも思うが、その結果、地理をテーマにした小説『チリケン』をこのたび刊行することができたのでグッジョブである。
中学生の頃は、暗記科目だった社会科自体得意ではなかったが、なんとなく地形図は好きで読図のテキストを何度も読んでいた。高校生になってからは、地形や環境問題に興味がわき、最初は地学科に進学しようと考えていた。
そんな私の考えを変えたのは、当時の地理の先生だ。地理学では大きく分けて、元々興味のあった地形などの自然地理と、人口や都市問題などの人文地理の2つを扱う。先生の授業は面白く、これまで苦手意識のあった社会、人文地理についても学んだ方が小説にはいいんじゃないかと思え、それならと地学から地理へと進路を変更することにした。
ちなみに、小説を書くなら文学を学びたいと思わなかったのかというと、当時から小説を書くには色んな引き出しがある方がいいんじゃないかという考えだった。将来のビジョンだけは昔からこだわって考えていた気がする。
大学受験には、内申点と小論文、面接で評価されるAO入試で挑んだ。面接には当時書いていた小説の原稿用紙の束(あの頃は手書きだった)を持参したのだが、面接官の先生に「学科間違えてない?」と質問されたのを覚えている。のちにその先生のゼミに所属し、今回の作品でも取材協力をいただいた。人生はとっても面白い。
大学時代は座学に加え、本当にさまざまなフィールドワークを体験した。テーマパークの駐車場で車のナンバーを数えたり、地方の商店街を調査したり、携帯の電波の届かない山中で山風を観測したり。基本的にインドアなので、人生で一番活動的だった時代かもしれない。
そんな大学時代にどこかの授業で聞いた話だが、末尾に「地理」をつければ大抵のものは地理学になるという。地形地理学、気候地理学、生物地理学、植物地理学、人口地理学、都市地理学、文化地理学……。都市問題、災害、文化、農業、観光などなど、身近な事象はほとんどすべて地理学でカバーできる。広大で懐の深い学問だ。
『チリケン』はそんな地理学をベースに、高校生たちがたくさん歩いて各々の悩みに向き合っていく小説だ。今作では私の出身・千葉県の地理にスポットを当ててはいるが、地理的な物の見方や考え方は場所が変わっても共通のもの。地図を片手にちょっと近所を歩いてみれば、立派なフィールドワークの始まりだ。
神戸遥真(こうべ・はるま)
作家。千葉県生まれ。明治大学文学部史学地理学科地理学専攻卒業。『恋とポテトと夏休み』などの「恋ポテ」シリーズ(講談社)で第45回日本児童文芸協会賞受賞、『笹森くんのスカート』(講談社)で令和5年度児童福祉文化賞受賞。また、第21回千葉市芸術文化新人賞奨励賞受賞。主な著書に「見た目で好きになるってダメですか?」(講談社)、「ぼくのまつり縫い」シリーズ(偕成社)などがある。

