長山さき『蒐集家ジミーと難民少年トリスタン』

物語の終わりに生まれる未来
トリスタンはコソボでの戦禍を逃れてベルギーの村に難民として家族とともにたどり着いた。小学校で友だちになり、オランダ語(ベルギーの公用語)を教えてくれたジミーも家庭に問題がある。孤独だったジミーにとっても、トリスタンと彼の家族にオランダ語を教えるのが生きがいとなった。誰かの助けになり、存在意義を感じられることが自分にも救いになるのだ、とジミーは実感する。
ある日、突然、トリスタン一家のもとに国外退去令が届く。ベルギーに住みつづけたいトリスタンと姉は周到な計画を立て、ジミーに協力を求める。怖ろしい行為を強いられ、不安に慄くジミー。だが断って、友情が壊れるのはもっと怖い。ジミーの気持ちに寄り添い、計画遂行の現場まで刻一刻と近づいていく読者は、緊迫感を味わう。
「日本でもっと難民児童について知ってもらえる作品を」と見つけて、翻訳にお声をかけていただいた本作は、オランダで毎年開催される〈本の週間〉にプレゼント本として出版された。期間内に本を15ユーロ以上購入すると、おまけとしてもらえる。読者も楽しみだし、作家にとっても執筆依頼を受けるのは名誉なこと。
作者のリーゼ・スピットさんは37歳。27歳のデビューから注目を浴び、実力が認められている彼女自身も、問題のある家庭で育った。アルコール依存症の母を気遣い、無邪気な子どもでいられなかった彼女には、ジミーと同じように難民の女の子のクラスメートがいて、彼女の家によくあそびに行っていた。その時の体験や思い出をこの本にちりばめた。
リーゼさんの他の作品も好きでファンになったわたしは、アムステルダムから4時間、電車を乗り継いで、ベルギーの海辺の町オーステンデに訪ねた。本書の結末は一読すると悲しいもので、そう捉えたレビューもネットで多く見かけたが、わたしは希望を感じた。その話を直接、会ってしたかったのだ。会話の内容を訳者あとがきに書かせてもらった。先に知ってしまうと読書のスリルが損なわれるので、是非、物語の読了後に読んでみてほしい。
難民児童について考えるきっかけになる本書。難民でなくても、さまざまな状況で無邪気でいられない子ども、ジミーのような孤独を味わったことのある大人は、日本にもいる。わたしもかつて孤独だったことも、リーゼさんと話せた。いつか、彼女の子ども時代や母親との関係を綴った他の本も、日本に紹介できるといい。
長山さき(ながやま・さき)
1963年神戸生まれ。関西学院大学大学院修士課程修了。1987年、ライデン大学に留学。現在アムステルダム在住。訳書にトーン・テレヘン『ハリネズミの願い』『きげんのいいリス』『キリギリスのしあわせ』『おじいさんに聞いた話』『ゾウのテウニス』、ハリー・ムリシュ『天国の発見』『襲撃』、ペーター・テリン『身内のよんどころない事情により』、サンダー・コラールト『ある犬の飼い主の一日』、シェフ・アールツ『青いつばさ』ほか。

