田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」第16回

田口幹人「読書の時間 ─未来読書研究所日記─」

「すべてのまちに本屋を」
本と読者の未来のために、奔走する日々を綴るエッセイ


 2024年2月16日に青森県平川市立大坊小学校の5・6年生を対象とした読書推進プログラム「読書の時間」の授業を開催した。今回の大坊小学校の授業をもって、2021年から続けてきたモニター授業を無事に終えることができた。

陸奥新報

 モニター授業にお申し込みいただいた先生方、授業で使用するキットへのコンテンツを提供してくださった出版社の皆さん、そして読書活動支援キットを利用した授業内容の構築に参画いただいた関係者の皆さんにこの場を借りて感謝を申し上げたい。
 ありがとうございます。

 読書推進プログラム「読書の時間」は、学校で⼦どもたちに「本とは何か」、「読書とは何か」を考えるきっかけを創る活動だ。これからの社会を担っていく⼦どもたちが「暮らしの中に本がある⼤⼈」に成⻑するきっかけを、ワークショップ形式でサポートするプログラムとなっている。

 NPO法人読書の時間は、「読書欲は読みたい本との出合いの蓄積から生まれる」と考えている。今ある本との出合いの場を今後に繋いでいくためにできることはないか。数年来、出版業界全体のコミュニティの力で、子どもたちと本を、学校と社会を繋ぎ合わせることができないか、模索し続けてきたが、子どもたちが本と読書について考えるきっかけとしての「読書の時間」という授業を創り上げてきた。

 この間、たくさんの子どもたちに体験していただいたが、当初は、我々の想いを強く反映させ、多くの要素を詰め込み過ぎたこともあり、子どもたちに楽しんで読書を学んでもらうことができていなかったと反省する日々だった。

 この授業を体験した児童や、司書をはじめとする学校図書館関係者の皆さんからいただいた沢山のご意見を反映させ、都度ブラッシュアップを繰り返してきた。その効果もあり、1月以降に実施したモニター授業後のアンケートでは、98%に「楽しかった」「また参加したい」「図書館を使ってみたいと思った」と回答いただくことができた。

 さらには、モニター授業を参観いただいた公共図書館の司書の皆さんからのお声がけも増え、読書推進活動の一環として読書推進プログラム「読書の時間」を実施してくださる公共図書館もあり、ここまであきらめずに続けてきてよかった、と今強く感じている。

 
 モニター授業と並行し、NPO法人読書の時間がこの間実施してきたのが、各自治体における学校図書館図書整備計画の進捗状況と図書関連予算の執行状況のヒアリング調査だった。計3067名の地方議員の皆さんと連携し、教育委員会へのヒアリングや、財務部財政課への聞き取り調査、決算特別委員会、予算委員会等を通じ質疑等をしていただき、各自治体における学校図書館に対する考え方をうかがってきた。この活動は、行政における学校図書館整備の課題を把握するためには大切な活動だったと考えている。

 ここで詳細は申し上げないが、行政における学校図書館整備の課題は大きく分けて4つに集約される。それを踏まえ、NPO法人読書の時間では、その4つの課題に対して、5W2Hを明確にする形で学校図書館の活性化を目的とした提案をまとめ、関係各所に訴えてきた。

 当初は、弱小NPO法人である我々の言うことに耳を傾けてくれる方は少なかったが、地道に活動を続けてきたこともあり、サポートや連携を申し出てくださる関係団体や出版社が増えてきた。

 一人でも多くの〝未来の読者〟を創るために、出版業界でできることはなんだろうか。出版不況云々と嘆くだけではなく、出版業界全体で未来の読者に「読書体験」をしてもらう活動を続けていこう、というNPO法人読書の時間の呼びかけに応じてくださる皆さんと共に、2024年度はこの活動をより早く、広い範囲で進めていける制度づくりが整いつつあることを嬉しく思っている。

 2024年度の活動予定については、現在関係各所との調整を進めていることもあり、次回以降にあらためてご紹介させていただきたい。

 
 ここからは、読書推進プログラム「読書の時間」の活動に対して、企画当初から伴走していただいている大日本印刷株式会社(以下、DNP)との連携から生まれた「DNP子ども読書活動支援キット」について触れていきたい。

 モニター授業は、主に「読書の時間」のワークショップで構成されている。DNPが制作した 「DNP子ども読書活動支援キット」を活用するもので、生徒が学校図書館を積極的に活用し、学習に役立てるきっかけづくりと、学校生活の中で何気なく本と出合える仕掛けづくりを目的としている。

 相談したDNPの担当部署の皆さんは、かねてより幼少期の読書習慣は、予測不能なこれからの未来を生き抜く子どもたちに必要な力である「認知能力」「非認知能力」の両方を培う、と感じていたそうだ。さらに、年々書店の閉店や廃業が相次ぎ、子どもたちが街なかで本と出合い、本と触れ合う機会が大幅に減少している現状において、子どもたちが等しく読書に親しむ環境整備が急務である、と考えていたそうだ。

 その想いを形にし、身近な場所で本と出合うポジティブな体験を育むために「DNP子ども読書活動支援キット」は企画された。

 おすすめの本に出合えるチャート式ポスターや、デザイン性の高いPOPや帯、本を絡めたクイズポスターなど、学校図書館の関係者の皆さんの実践からヒントとアドバイスをもらいつつ、「忙しくて作りものにまで手が回らない」という皆さんの声にお応えするために、簡便に、交流性と動作性、探求性を持ち合わせ、楽しんで本と出合える仕掛けが詰め込まれている。

 だが、もっとも大切なのは「子どもたちが興味を示してくれるか、楽しんでくれるか、学校図書館に行きたいと思ってくれるか」という子どもの視点に立つことだった。

 DNPの開発担当の皆さんも、実際に学校を訪問して講師としてモニター授業に何度も参加し、直接子どもたちの反応を肌で感じ、改良を繰り返してきた。

 中でも人気があったのが、日めくりカレンダーのように、めくることで毎日新しい本と出合える「日めくり本紹介」である。「日めくり本紹介」は、卓上と壁掛けの二通りで使用することができるのだが、教室や廊下などに設置してもらうことで、学校生活の中で、さりげなく毎日新しい本を知ってもらうことが狙いとなっている。

日めくり本紹介

 掲載されている書籍は、日本十進分類法(NDC)の10分類がまんべんなく日替わりで現れるようになっており、コンテンツを提供してくださる出版社も22社まで増えた。まだ100日分程度の日めくりとなっているが、遠くないうちに年間授業日数の196日分の「日めくり本紹介」を目指している。

「日めくり本紹介」は、朝、日めくりをめくる際、掲載されている紹介を通じて、「この本読んだことある?」「これはどんな本?」等、少しの時間かもしれないが、本を話題として子どもたちの交流を創り出すことができる。実際、子どもたちが「日めくり本紹介」をめくりながら、そのような話をみんなでしている姿を目にしたことがある。毎日様々なジャンルの本が紹介されるので、自分の好きな、あるいは興味のないジャンルの本とも出合うことができ、普段自分では選ばないような本との出合いを創ることができると思っている。

 全国の小学校、中学校の全ての教室に「日めくり本紹介」を設置することができればいいな、という夢を実現すべく、今後も地道に活動を続けていけたらと思っている。


田口幹人(たぐち・みきと)
1973年岩手県生まれ。盛岡市の「第一書店」勤務を経て、実家の「まりや書店」を継ぐ。同店を閉じた後、盛岡市の「さわや書店」に入社、同社フェザン店統括店長に。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに活動し話題となる。2019年に退社、合同会社 未来読書研究所の代表に。楽天ブックスネットワークの提供する少部数卸売サービス「Foyer」を手掛ける。著書に『まちの本屋』(ポプラ社)など。


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