田丸雅智『もしも料理店』

ようこそ、もしも料理店へ
「うちのレストランは、一風変わっておりまして。本日料理に使用する食材は、こちら、山の中を走り回っていた30センチほどの若い自動車でございます」
は? 自動車? なに言ってんの……?
すみません、いきなり面喰らわせてしまったことかと思います。なのですが、今作『もしも料理店』に登場するのは、こういったふつうは絶対に食べられない食材です。
自動車であったり、月であったり、トランペットであったり、公衆電話であったり。
それらの食材を、時に解体したり時に下処理したりしながら素晴らしい料理に変えてしまうのが、緒方シェフ。その様子を見守るのが、語り手でもあるアシスタントの優。やってきたお客様は最初は面喰らってしまうものの、出てきた料理にごくりと喉を鳴らして口に運ぶ。瞬間、「おいしいっ!」と声が出て、頭の中に食材にちなんださまざまなイメージが流れこんでくる。そして、お客様は前向きな気持ちになって帰っていく──。
本書には、そんな11話を収録しています。
料理の監修をしてくださったのは、ものがたり食堂/Nami Zaimokuzaの、さわのめぐみさん。今回、あり得ない食材のレシピを考えてほしいというムチャぶりとしかいえないお願いを快く受け入れてくれ、素敵なレシピを考案してくださいました。いただいたレシピは見ているだけでおいしそうで、アイデアを考えていて、お腹がぐぅ。執筆中に、お腹がぐぅ。ゲラをチェックしていて、お腹がぐぅ。読んでくださった方も、このあり得ない料理にお腹を空かせていただけたら本望です。
この料理、本当に食べたくなってきた……。
そう思ってくださった方のために、巻末にはさわのさん監修の4品のレシピも特別収録されています。「でも、自動車なんて用意できない」そんな方でも大丈夫。ちゃんと代替食材も書かれていますので、ぜひ読後は料理にも挑戦してみていただけたらうれしいです。
ちなみに、本作はAmazon オーディブルでも音声配信されていて、声優の村瀬歩さんが素敵に朗読してくださいました。よければ、合わせてチェックしていただければ幸いです。
本書の読了後には、ぜひ周りのものをいろいろ見回し、「もしあれが食べられたら?」と想像をふくらませてみてください。これぞという食材が見つかれば、もしも料理店へ持ち込みを。にっこり迎えてくれたシェフが、きっとおいしい料理に変えてくれることでしょう。
田丸雅智(たまる・まさとも)
1987年愛媛県生まれ。東京大学工学部卒、同大学院工学系研究科修了。現代ショートショートの旗手として執筆に加え、坊っちゃん文学賞等において審査員長を務め、また2013年から全国各地で創作講座を開催する等幅広く活動。講座の内容は20年度から小学四年生の国語教科書に採用され、21年度からは中学一年生の国語教科書に小説作品「桜蝶」が掲載(いずれも教育出版)。「おとぎカンパニー」シリーズ、『ショートショート千夜一夜』『転校生ポチ崎ポチ夫』等著書多数。メディア出演に「情熱大陸」「SWITCHインタビュー達人達」等多数。