中澤日菜子『シルバー保育園サンバ!』

中澤日菜子『シルバー保育園サンバ!』

ひとは、幾つになっても成長できる


『シルバー保育園サンバ!』のもともとの原稿は、2018年頃に書いたものだから、すでに6年ほど前になる。

 拙著『PTAグランパ!』で、おじいちゃんが孫娘の通う小学校のPTAになかば無理やり入れられ、そこで起こるさまざまな事件に揉まれて成長していくすがたを描いたのだが、『シルバー保育園サンバ!』の発想は「小学生とおじいちゃんがともに過ごす過程がこれだけ面白いのなら、さらに年齢層を下げて男性高齢者が赤ちゃんも通う保育園で働いたらその格差はどれだけ興味深いものになるだろう」という、ある意味安易な思い付きにあった。

 そこでまず1章ぶんを書き、とある出版社に持ち込んだのだが、「うまく書けてはいるが、それだけ」と言われ、出版には至らなかった。そのまま忙しさに取り紛れ、『シルバー保育園サンバ!』のことはすっかり忘れていた。

 時は流れ、2020年から始まったコロナ禍もあり、わたしはすっかり創作意欲を失ってしまっていた。

 その虚無感から逃れるため、久しぶりにアルバイトを始めた。「障害のあるお子さんの学童保育」。そしてわたしはこの仕事で、生まれて初めて障害を持つ子どもたちと関わることになる。

 癇癪を起こして暴れまわる子、髪を抜いたり腕を引っ掻いたりといった自傷行為を繰り返す子、職員に対し殴ったり蹴ったり噛みつく子ども―――「こんな世界があるのか」わたしは毎日驚きを持って過ごした。

 そんなある日、ふと思ったのである。「小説の舞台となる保育園に、障害のある子どもを登場させたらどうだろう」。

 その思いつきは、足りなかったパズルのピースがぴったりはまるように、物語を深みのあるものとし「多様性とはなにか」「障害を持つひとたちとの共生とはなにか」といった、まさに今日的な問題を浮かび上がらせたのであった。

 さらに「今度は保育園に就職し、現場の取材をしたらどうか」という編集担当さんのアイデアを受け、保育園でのアルバイトを始めた。20年前じぶんの子どもたちを預けた経験はあるものの、現代の、それも利用者ではなく保育者として保育を体験することは、物語の輪郭をはっきりとさせ、さらにリアリティを増すという素晴らしい機会を与えてくれた。

 療育と保育。そこで子育てにはなんら関わってこなかった昭和の父親である偏屈な高齢男性が改めて「子どもを育てるとはどういうことなのか」「障害児とどう関わればいいのだろうか」という問題に向き合い、少しずつすこしずつ成長していく。

 そんな物語ができあがった。「いくつになろうとも人は成長できる」というメッセージをこめた「シルバー保育園サンバ!」、ぜひお手に取っていただきたい一冊である。

 


中澤日菜子(なかざわ・ひなこ)
1969年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。2013年『お父さんと伊藤さん』でデビュー。同作品は2016年に映画化。他の著書に、NHKで連続ドラマ化された『PTAグランパ!』、『お願いおむらいす』『一等星の恋』『働く女子に明日は来る!』など。

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シルバー保育園サンバ!

『シルバー保育園サンバ!』
著/中澤日菜子

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