「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第18回
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18.「FOLKER がやってくる」
冬でありますね。冬という季節は生物にとって、死の気配を身近に意識する季節です。それはもちろん人間にとっても同じです。だから冬はイベントごとが多いのではないかと手前勝手に思ってしまいます。12月は師走で皆忙しくし、クリスマスがあったり、それとはまた別のお祭りがあったり、テレビ番組の中でも年末スペシャルと題し、大仰なプログラムが組まれたり、お正月に向けて支度したり、もっといえば、『新年を迎える』という概念的な大イベントを遂行する。
気を抜いてしまうと感じ取ってしまう、あの死の気配を振り払うために生命パワーを奮い立たせているのではないでしょうか。
人も、その他の生物も、仲間や家族と共に、あるいはそういう実体的なものに限らず、自分の好きなものや未来への希望、負けてなるものか精神、過去の贖罪など、様々なものと共に在ることによって生命パワーを滾らせて、あれらの気配を打ち消さんとしているのだと思います。まあ、そういうものとは関係なく、我ここに在りといった、ただ存在しているだけで生命パワーの塊のような生物も稀にいると思いますが。
さてもさても、現在僕は舞台の稽古の真っ只中であります。2月14日から始まる後藤ひろひとさんこと大王の舞台「FOLKER」にコンビ共々出演させていただきます。
とある女囚刑務所では死刑囚達のレクリエーションプログラムとしてフォークダンスが採用されていた。いつ死刑が執行されるかもしれない恐怖の中、とある男性指導員は彼女たちにフォークダンスとは楽しく笑顔で踊るものだと指導していた。そんな中、あんな人やこんな人が現れては掻き乱し、果てはフォークダンスバトルなるものにまで発展。思惑や真実、そして善意も悪意もぐるぐるぐるぐる巻き込んだ一大フォークダンスエンターテインメントなのです。
すみません。うまいことあらすじを提示することができませんでした。しかしながら、大王の作るこの作品には、ただの言葉としての感情の羅列だけでは収まらない、多種多様な人の心の動きが物語上に立ち現れます。それは悲しみと怒りの狭間のものであったり、憎悪と愛情の狭間のものだったり、まだ名のついてない感情を得ることができるように思います。きっと、己の感覚がいつもより、豊かにぐにゅんぐにゅん捏ねられてしまうことでしょう。よかったらパイル地の厚めのハンカチをご用意してお越しいただきたいです。
さてもさてものさてもちゃん。おや、さてもちゃんが出てきたらこれはもう、話が変わりそうですね。
さてもちゃん「さあ、話が変わるよ」
さてもちゃんが言うならそうなのでしょう。しかしながら、これから話は変わるけど、全く関係ない話をする気はありません。フォークダンスの話をしましょう。
さてもちゃん「あーしが出てきたら話180度変えないといけないでしょっ、恥知らず恩知らず! 無知! この無知!」
(さてもちゃん下手袖ハケ)
あー、さてもちゃん、へそを曲げて下手袖にハケてしまいました。大丈夫です。後で濃い抹茶を奢っときます。さてもちゃんは濃い抹茶が大好物なのでね。
フォークダンスというと、やはり『マイムマイム』でしょう。小学生の頃に輪になって踊った記憶があります。あの両隣の人と手を繋ぎ、マイムマイムと歌いながらぐるぐる回ったり、中央に集まったり、離れたりするやつです。今も踊ったりしているのでしょうか。
やはりマイムマイムで気になるのは歌詞ですね。サビのところと言えばいいのでしょうか。なんとなくで口に出してみますと。
「マイムマイムマイムマイム、マイムイッサンソン」
イッサンソンです。これは一散村ということですね。1回解散した村ということです。1回解散した村がマイムマイムを通してまた再び集まろう、という踊り。そう考えたら、切なさや前向きな祈りが込められた踊りのようにも思えます。
まあ、そもそも確実に日本語ではないのでそういう意味なはずがありませんよね。そもそものそもそもちゃん、イッサンソンでもないような気もしますし。
ああ、しまった。そもそもちゃんが現れてしまいましたね。
そもそもちゃん「……」
あ、そっか。そもそもちゃんは人見知りで無口なので、放っておいても大丈夫。一応、プロテインバーをあげます。そもそもちゃんは鍛えてないのにプロテインバーが大好物なのです。でも運動しないと、ただのプロテイン摂取は太ってしまいますよ。
しかしながら、どんな歌詞の意味で、どんな願いが込められているかはわかりませんが、フォークダンスを催すと、そこに幾重にも人の輪が生まれ、ぐるぐるぐるぐるとダンスが繰り広げられる。そこには確実に、熱情が生まれるのです。
その熱源の正体はわからなくとも、確かに、ぐるぐる回る回る人間の身体から精神から発せられているのです。これらの熱こそ、冷酷であり美しくもある、冬に訪れるあの死の気配を紛らわしてくれるものなのかもしれません。
もうすぐ「FOLKER」がやってきます。熱エネルギーあふるる舞台を、みなみなさま、どうぞご覧にいらっしゃってください。
さてもちゃん「あーしもいくよ」
おや、ありがとう。さてもちゃん。
そもそもちゃん「……」
そもそもちゃんはインドア派で無口だからね、無理しなくても……
そもそもちゃん「……いく」
そもそもちゃん……。ありがとう。さてもちゃんも、そもそもちゃんも来るらしいですよ。皆さんもぜひですよ。
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平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。