「妄想ふりかけお話ごはん」平井まさあき(男性ブランコ)第20回

20.「タンザニアでたくさん見たンザニア」
先日、友人3人とタンザニアに行ってきました。タンザニアは東アフリカに位置する国で、ケニア、コンゴ民主共和国、ウガンダに隣接しています。つまりは、とてもサバンナまっしぐらな国なのです。ちなみにサバンナというのは乾季と雨季のある熱帯に分布している草原地帯のことです。タンザニアはそういう意味でも、とってもサバンニーなサバンナを有しておりました。
今回仕事ではなく、ただプライベートで旅をしたいがためにタンザニアへ行きました。出発前の僕の胸中にはタンザニアで為さんとする大いなる目的が渦巻いておりました。その目的とは、何を隠そう。いや何を隠すことがあろうか。隠したってどうせすぐ漏れ出るのだから隠すの止めなさい。はい、わかりました。
「たくさんの生き物を見よう」という目的です。
あらま、なんて潔い大いなる目的でしょうか。僕はこの目的を為すため、数日間タンザニアで過ごしたのです。先んじて結論から申しましょう。僕は果たしてこの目的を為したのか為していないのか。答えは……
為した。
そう、為したのでございます。
タンザニアのサバンナで生き物を見る方法としては基本的にサファリパークと同じ要領で、車の中からしか見ることはできません。天井は開くので、そこから顔をのぞかせて観察したり写真を撮ったりします。ちなみに現地のガイドさんが乗っているサファリカーは全部、TOYOTA のランドクルーザーでした。四輪駆動の力を大いに見せつけられ、どんなボコボコ地面でも、「いやいや登れないでしょう流石に、ここは」と言いたくなるような坂もなんのその、グオングオン登っておられました。すごいなあ、ランクル。
僕が行ったのは、おおまかに、ンゴロンゴロ保全地域、ンドゥトゥ地区、セレンゲティ国立公園の3カ所でした。しりとりのルールを揺るがしてしまうような名前の場所で、それぞれ2泊ずつしました。だいたいの一日のスケジュールは朝サファリ、昼ご飯、昼サファリ、夜ご飯、就寝でした。
もうサファリ三昧の日々です。サファリに次ぐサファリ。夜寝ていても夢でサファリ。このサバンナという地は、どうやら我々がサファりたくなくても四六時中サファらせてくるのです (サファりたくないという感情なんてこの世に存在しないのですけれども) 。
あと夜のサファリはとても危険なので基本的には出来ないのですが、唯一、マニャラ湖というところだけはなぜか可能ということでナイトサファらせてもらいました。
この旅で見ることができた野生の生き物たちは、タンザニアで BIG5と言われている生き物であるライオン、ヒョウ、アフリカゾウ、バッファロー、クロサイをはじめ、キリン、ハイエナ、カバ、チーター、ヌー、シマウマ、インパラ、トムソンガゼル、鳥類からはダチョウ、ヘビクイワシ、ホロホロ鳥、フラミンゴ、アフリカハゲコウ、ペリカン。わかりきったことですが、アフリカでした。生アフリカでした。生アフリカを存分に体験したのでした。
滞在中、僕には相棒のマシンがありました。それはレンタルした一眼レフのカメラ(そういうものがあるなんて知りませんでした)。望遠レンズ搭載、初心者でも簡単にピントを合わすことができる優れモノ。僕が借りたものは10日間で9000円ほどと格安でした。そんなレンタル相棒とサファっている間、僕の心のカメラマンはいつだってこんなことを言っていました。
「俺のレンタルカメラが火を噴くぜ」
と。レンタルの時点で格好はついてないのですが、それはご愛敬です。初日でレンズカバーを無くして、後に弁償することになるとは、火を噴かせている僕は知る由もなかったのですが。
あれもこれもどれも、えもいわれぬ体験ばかりだったのですが、これだけは書き記しておかなければならない、僕が見た光景のことを報告させていただきます。
それはカバが集まる、とある小さな湖での事柄でした。ガイドの Mr. テムがヒポプールと呼んでいたその場所には、子供も入り混じった数十頭ものカバが、水の中で日差しから身体を守っていました(カバは皮膚が弱いので日中は乾燥しないように水をかけて保護します)。
時々尻尾を器用につかって、水を背中にかけたりして、そんなのほほんとしたのどかな光景を、僕をはじめ、周りの観光客もカメラで写真を撮ったりしていました。
すると突然、カバ同士の喧嘩が起こりました。大人のカバが口を大きく開けてぶつかり合います。その際に、片方のカバの顎の皮膚にもう一方のカバの歯が刺さり、血がぼたぼたと流れました。
「おいおいおい、ちょっとちょっと」と仲裁に入るわけにもいきません。その野生の喧嘩は一人間が止められるようなものではありませんでした。カバの物凄い大きな咆哮と共に喧嘩は続き、その直後、片方のカバが小さな子カバを口に含み、ぶんぶんと振り回し始めたのです。
本当に意味がわかりませんでした。さっきまで大人のカバ同士で喧嘩をしていたのに。その子カバを口にくわえた大人カバはずっと子カバを振り回していました。実際は数分間でしたが、とても長い時間に思えました。子カバはただ振り回されるがままでした。
カメラなんて構えることはできませんでした。でも、目を逸らすこともできませんでした。ただただ呆然でした。もちろん周りの観光客たちも、ただただ立ち尽くしていました。もう頼むからやめてくれと願わずにいられませんでした。
狭いヒポプールは大混乱でした。その混乱が収まる頃にはあの子カバの姿を見失ってしまいました。きっと何かの拍子で子カバを放したのでしょう。子供のカバは他にたくさんいたので、もしかしたら、あそこで泳いでいる子カバかなとか、そうだったらいいなと思ったりしました。野生の荒々しさを前にし、数分ぼーっとしてしまいました。
一体何が起きたのでしょうか。Mr. テム曰く、これは縄張り争いの喧嘩だそうです。今タンザニアは乾季。雨が降らないため、カバが休息できる湖が少ないのです。さらにカバは縄張り意識が強い生き物です。狭い場所でもその縄張り意識の強さは発揮されます。
先ほどは、あの子カバが、隣のカバの縄張りに間違って入ってしまったのだそうです。それだけで、あんなことする? 流石にやりすぎていると人間である僕は思ってしまいました。
だけれど、これも野生であり、自然なのだなと思うしかないのかもしれません。自然には僕なんかには到底理解しえない論理やルールがあるのです。しかしながら、この光景は脳裏に焼き付くほど、くらいました。
Mr. テムは最後に言いました。
「Life is difficult」
そんなありのままの厳しい野生を見せつけられたかと思うと、何時間後かには、大きな大人アフリカゾウが、ちょっとした坂を登れない赤ちゃんゾウを鼻でアシストする姿を見たり、若い雄ライオンの三兄弟が遊んだり、ごろごろしていたり、広大なサバンナを360度埋め尽くすほどのヌーとシマウマの群れが草を食んでいたり。こんなの感情の置き所がわからなくなります。
今回の旅で、人生観が180度変わったなんて実感はありません。人生観がどうだとか意識することもありませんでした。
だけれど、確かにたくさんのものを見ました。たくさんの生き物、たくさんの景色、たくさんの生きている光景を見ました。それらもまた大きな自然のごく一部なのかもしれませんが、自分が生きてきたその延長線上に、これらたくさんのものを見たという事実は僕の脳に心に深く残っています。
ガイドをしてくれた Mr. テム、色んなところを案内してくれてありがとう。確かに Life は difficult だね。でもそれに加えて beautiful だね。
ということで僕の大いなる目的「たくさんの生き物を見る」は、こうして為されたのでした。

平井まさあき[男性ブランコ]
1987年生まれ。兵庫県豊岡市出身。芸人。吉本興業所属。大阪NSC33期。2011年に浦井のりひろと「男性ブランコ」結成。2013年、第14回新人お笑い尼崎大賞受賞。2021年、キングオブコント準優勝。M-1グランプリ2022ファイナリスト。第8回上方漫才協会大賞特別賞受賞。趣味は水族館巡り、動物園巡り、博物館巡り。