ニホンゴ「再定義」 第13回「余暇」
当連載は、日本在住15年の〝職業はドイツ人〟ことマライ・メントラインさんが、日常のなかで気になる言葉を収集する新感覚日本語エッセイです。
名詞「 余暇 」
2024年、日本のGDPがドイツに抜かれて4位となり、おかげで「職業ドイツ人」たる私は各種マスコミからインタビューを受ける羽目になった。そこで求められた観点は「ドイツ人の働き方」「ドイツ社会におけるワークライフバランスの通念」といったものが中心で、裏を返せば、日本の労働システムについて「会社人間なわりに非効率で生産性が低い」ことを裏書きせよという話であった。「日本人と勤労」というテーマについては本シリーズ第8回「サボる」でも言及したが、そこでの議論では回収しきれない領域に踏み込まざるを得ない展開だ。
ちなみにワークライフバランスについては、「現代ドイツ人は休みを楽しむために働くので、高効率での作業を目指す。それが組織機能の高効率化につながる」というのが私の説明の基本であり、聞き手の皆様は「ほー!」と感心してくださるのだが、そう説明しながら私の内心では一つの疑問が湧いていた。
「現代ドイツ人のワークスタイルは現代日本人の手本になるのか? 現代日本人ワークスタイルの高効率化とはそもそも何なのか?」という問題である。
私の日本のサラリーマン知人のほぼ全員が、「ITデバイスの進歩により、10年前に比べても作業効率は数倍に上がった!」と口を揃えて証言する。
では、生産性は上がったのか?
そうではない、とこれも皆が口を揃えて言う。
おそらくマズさの核心はここにある。
たとえば、あるIT作業フローの導入によって作業効率が2倍になったとする。従前では1か月かかった作業が半月で出来る! するとドイツでは「じゃあ半月休もう!」という方向で盛り上がる。日本でもそうなるか? 答えは否だ。実際どうなるかといえば、「同じような仕事が同じような密度でやってきて、残り半月もそれをひたすらこなさなければならない」のだ。
いや、待てよ? ならば、少なくとも生産性は倍になるのでは?