御木本あかり『シニアの星』

御木本あかり『シニアの星』

高齢になるというのは、自由になって放たれること


 スタートは怒りです。ねぇねぇ、高齢者ってなんだか阻害されてない? という。 

 仕事はなくなり、若い世代からは距離をおかれ、なにかというと、「高齢者が増えて」と眉をひそめられる。医療費増大も、詐欺や逆走の頻発も、全部、高齢者が悪いみたいな社会の空気。完全高齢者枠に入った身として、実に気に入らない。 

 そのモヤモヤした怒りを、小説にしようと思いました。小心者ゆえ、自分では何も言えないけれど、登場人物にこの憤懣を代弁してもらい、「年寄りを舐めんなよ!」と世の中に宣言しようじゃないの、と。

 主人公は、美人でもスターでもない、過去も今も垢抜けない女性評論家です。年と共に仕事は減り、収入も減り、アイディアも浮かばなくなって、先行きは不安しかない。でも、その現実は認めたくない。若い頃の勢いのまま臆することなく、傲岸不遜の姿勢で突き進みたい。「綿帽子時子」という癖の強い名前が浮かんだ時、この話は書ける!と確信しました。

 当然、周りは振り回されます。振り回される人物その1は、同居する姪の正美です。時子の秘書兼家事担当としてダラダラ人生を過ごしてきて、この先、どうするんだ、とやや焦っている冴えないアラフォーです。自分の将来も不安だけれど、秘書として、激減した時子の仕事も開拓しなくてはならない、実家の親の問題も抱えています。そこに振り回される人物その2として、時子の担当編集者・内山篤郎君が加わります。胴長短足小太りで、とびきり人はいいけれど、なんとも頼りない。このパッとしない3人が、前に進まなきゃ、と力を合わせます。

 怒りに燃えているのは時子だけではありません。友達の少ない時子にも、匡子さん、千春さんという親友がいて、3人は年中、集まって、正美の手料理を肴にお酒をガンガン飲み、愚痴を言い合って憂さ晴らしです。順風満帆にみえる匡子さん、千春さんも、家族の問題をそれぞれ抱えていて……。

 若者だって壮年だって、生きていくのは大変です。人生とは心配事の連続ですが、高齢になるとそこに「全てが衰えていく」現実がどーんと押し寄せ、明るい展望なんてますます持ち難くなる。年取るって哀しい……いやいやいや、そこで諦めるわけにはいきません。

 時子達も諦めません。「年取ったらもう、自由に好き勝手に生きりゃあいいのよ!」そう豪語し、周りを巻き込んでいくのです。

 そうだ、柔軟に生きればいい! 年寄り、侮れず! 時子達のメッセージを読者の皆さまにお届けできたかどうか。そこは、読んでお確かめください。

  


御木本あかり(みきもと・あかり)
1953年千葉県出身。お茶の水女子大学理学部卒業後、NHK入局。夫の海外勤務で退職し、その後通算23年、外交官の妻として世界9カ国で生活。本名の神谷ちづ子名義でエッセイ『オバ道』『女性の見識』などの著書がある。2022年『やっかいな食卓』で小説家デビュー。他の著書に『終活シェアハウス』。

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シニアの星

『シニアの星』
著/御木本あかり

◎編集者コラム◎ 『Q(上巻 覚醒前夜・下巻 暗夜行路)』呉勝浩
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