週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.131 くまざわ書店営業推進部 飯田正人さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 くまざわ書店営業推進部 飯田正人さん

『地雷グリコ』書影

『地雷グリコ』
青崎有吾
角川書店

 きょうは最近読んだすこぶる楽しい小説を紹介します。青崎有吾の『地雷グリコ』という本です。地雷グリコね!懐かしいなあ、子どものころ妹と近所の神社でよくやったなあ!というのはウソで(なんでそんなウソを?)、これはみんなが知ってるジャンケンポンで勝った手に応じて進むあのグリコ、に追加のルールをつけてゲーム性を高めたオリジナルのゲームの名称です。本書は第1話の地雷グリコほか、4つのオリジナルゲームでもって高校生たちが楽しく遊ぶ、否、腹の底を探りあい化かしあう青春ギャンブルエンタメ小説であります。地雷グリコのほかには百人一首の札を使った神経衰弱、グーチョキパー以外の独自手をありにしたジャンケンなど、よく知られたものにひとひねりが加えられたゲームが登場します。

 この作品の魅力をよっつ書きますね。ひとつめは、これらのオリジナルゲームのルールがむつかし過ぎないというところです。オリジナルのゲームで勝負するギャンブル作品はいくつもありますが、ちょっと複雑なルール、複雑な戦略になってくるとちんぷんかんぷん、あたいちょっともうついていけまへんわ、すごすぎてっちゅうかすごいのかどうかも正直よくわかりまへんわ、という経験はございませんか?わたしは文系なのでよくあります(文系だからなのか?)。本書はその点、絶妙のゲームバランスに設計されていると思います。「地雷グリコ」は大筋では神社の階段で行うふつうのグリコなのですが、プレーヤーの2名とも階段のうち3つの段に「地雷」をしかけ、相手がそこで立ち止まった場合はそこから10段下がる、というものです。あとあいこが続いたらこうする、など少し細かいルールはあるけれども、地雷がある以外はだいたいふつうのグリコ。ね、簡単でしょ、じゃあさっそくやってみようか!

 という具合に、本作の魅力のふたつめはスピード感です。各話だいたい10〜15ページくらいですぐゲームが始まります。スポーツモノだと試合と試合の間にドラマがあったりしますが(わたしは修行の場面が大好きですが)、基本的にどこを開いてもだいたいゲームをしています。回想シーンがほんのちょっぴり。あまり前置きせずすぐ勝負が始まるところ、そして序盤はじっくり様子を見ていこうか、ということもなくバンバンとスリリングな展開でまったく飽きさせることがありません。

 みっつめの魅力は登場人物の造形です。主人公たる射守矢いもりや真兎まとは「亜麻色のロングヘアに短めのプリーツスカート。ぶかぶかのカーディガンがいまにも肩からずり落ちそう」で「いちごオレ片手にお散歩気分で歩く」ような脱力系女子高校生。しかし勝負ごとには強いという。ホントかいな?という印象がしかしゲームが始まった瞬間に一変、しないっていう。このローテンションさが、いや、これ以上はここでは語らないほうがよいかもしれません。

 よっつめ、最大の魅力はその凄まじさにあります。これもできるだけ是非予備知識なく語り部たる鉱田こうだちゃんたちと一緒に一喜一憂しながら読み進めてほしいところなのですが、ひとつだけ言えるとすれば、ゲームは勝ち負けよりみんなで楽しむことが大事!みたいなことは全然ない。ガチ中のガチな勝負だけが繰り広げられる。そしてこの本を読み終わったあとに、紹介された5つのゲームで遊ぶ勇気のある人がどれだけいるだろうか(かろうじて「自由律ジャンケン」かな?)。それくらい目の前は焼け野原となっているでしょう、地雷を踏まずにすんだとしてもね。

 ということで『地雷グリコ』が2023年度下半期飯田の超オススメです!

 最後に。実はひとつウソをつきました。わたしに妹はいません。

 

あわせて読みたい本

『ノッキングオン・ロックドア』書影

『ノッキンオン・ロックドドア』
青崎有吾
徳間文庫

 SixTONES の松村北斗さん、なにわ男子の西畑大吾さん主演で昨年ドラマ化され話題になったタイミングで読んだのですが、これはとても面白いです!主人公は2人の仲良しバディ探偵、それぞれトリックを解き明かす「不可能」担当と動機を解き明かす「不可解」担当とに分かれており、今回は僕の事件!いや悪いなオレの事件だったな!というふうに2人は相棒であると同時にライバルでもある関係性、それが各話ごとにスイッチする語りに現れるところなんかもすごくいいんですよ。

 

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『超短編! 大どんでん返し Special』
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飯田正人(いいだ・まさと)
書店バイヤーをしています。趣味は映画(年間100本映画館で観ます)。最近嬉しかったことは指導担当のお店が褒められていることと、自宅の台所の下にもうひとつ収納があると気づいたこと。


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