週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.188 BOOKアマノ布橋店 山本明広さん
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本には世の中のありとあらゆることが詰まっています。世界の歴史や今起こっている事、日々の暮らしをよりよくするための知恵や知識、娯楽に物語と、様々な物事を扱ったものが書店に並んでいます。その書店が2003年からの20年で店舗数約2万店からほぼ半減、2023年には614店と1日1店舗以上が閉店し、一方で新規開店は92店と3桁を割っています(一般社団法人 日本出版インフラセンター調べ)。この激動の時代に書店は存在意義そのものが問われているのではないかと、「世の中に対して、書店が出来ることってなんだろう」と私はこのところずっと考えています。
そんな中、2024年元日に能登半島でマグニチュード7.6、最大震度7を記録する地震が発生。新年のお祝いムードも一転、被災地の様子が報じられる日々が続きました。その頃、加藤シゲアキ氏が候補に選ばれた直木賞選考会の待ち会で、「能登半島地震の被災者のために何か出来ないか」ということで今村翔吾氏に声を掛け、さらに小川哲氏が加わって本書が作られることになりました。
奥能登地域では「あえのこと」と呼ばれる稲作を守る〝田の神様〟を祀り、感謝をささげる儀礼があるそうです。そこで、「あえ=おもてなし」「こと=祭り」として、被災地の方を物語(=がたり)でおもてなししようという意図から、この作品は「あえのがたり」と名付けられました。発起人の3人はもちろんのこと、賛同して集まった10人の豪華な顔ぶれにより「おもてなし」の「物語」が綴られています。能登を舞台にしたものがあれば「おもてなし」を前面に押し出したものもあります。
また、この本の印税と売上の相当額が能登半島の復興支援のために寄付されることになっています。私たち書店員が、物語を通して「世の中に対して何か出来ないか」と考えている作家さんたちの想いを読者へつなげられることは喜びであり、使命でもあると思います。そして、この本を購入すること、この本を通して能登に想いを馳せることを1人でも多くの人にしてもらえたら、それも書店の存在意義のひとつなのではないかなと思っています。
さて、縁あって私が担当させていただいた本の紹介は、今回で最後となります。これからも本が、書店が必要とされる世の中であり続けられることを願い、締めとさせていただきます。ありがとうございました。それではまた、書店の店頭で。
あわせて読みたい本
能登在住の新聞記者が震災発生後から毎日執筆、発信を続ける現地の写真とレポートの記事をまとめた1冊。取材者であり被災者でもある著者が全国に届ける能登半島の日々。復興が続く中、秋には豪雨がその傷をさらに抉るように襲い掛かる。日々の報道は減ったが、タイトルが示す通り、この災害はまだ終わっていない。能登の印刷所で刷られたこの本とともに、この出来事とそこに暮らす人々の想いを忘れないようにしたい。
山本明広(やまもと・あきひろ)
静岡県浜松市出身の書店員。店では書籍全般と文庫を担当。静岡書店大賞の実行委員も務めています。