『リカバリー・カバヒコ』青山美智子/著▷「2024年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
すべては一枚の写真から
青山美智子さんに初めてご連絡したのは、『お探し物は図書室まで』を拝読した2021年1月。すでに執筆予定が先々まで決まっていて、順番待ちだな、それが第一印象でした。
その3ヶ月後の打ち合わせで、私たちは奇跡の一枚に出合うことになります。
青山さんの「〝とげ抜き地蔵〟みたいなお話を書きたい」という案は魅力的で、老若男女の集う新築分譲マンションがいい、誰もが気軽に立ち寄れる公園かな、公園といえば遊具だよね……カバ! カバがいい気がする! と溢れ出るアイデア。
「……カバ、ですか?」想像力の及ばない私と同席した編集長(失礼)は、スマホで「カバ 公園 遊具」と検索。大きな口をあけたコワい感じのカバが並ぶなか、編集長が探り当てた一枚の哀愁漂うボロボロに剥げたカバの遊具の写真。それが、カバヒコとの出合いでした。写真を見た瞬間、「この子!!」と目を輝かせた青山さんは、この子にみんなが悩みを打ち明ける話にする、とその場で決めてくれたのです。
それからわずか2週間後、『リカバリー・カバヒコ』のタイトルで全5話の人物設計とプロットが届き、「小説宝石」での連載が決定。挿絵を頼んだ合田里美さんの描くカバヒコがまた最高で、すべてがトントン拍子。
ところが、連載も残りあと1話という時、珍しく青山さんからお電話が。ご体調を崩してしまい、すべての原稿執筆をストップしている状況とのこと。
あと1話なのに、せっかくの雑誌連載なのに、申し訳なくて……と涙される青山さんに、私は気がつくとこんなことを言っていました。
「しっかり休んでリカバリーされた青山さんが、どんなリカバリーの物語を書かれるのか楽しみです」
体調不良までネタにしろという鬼です。でもそれを聞いた青山さんは、「そっか、そうですね」と少し笑って下さったように記憶しています。
コロナからのリカバリー中の人は増え続け、落ち込みきった経済もリカバリーしようという時節。「リカバリー」に含まれる「カバ」が、青山さんの頭に浮かんだのは必然だったのでは──
そして数ヶ月後、最終話が書けた、といただいたお原稿に驚くことに。プロットとは人物名も展開も変わっていて、そうだったのか! と感動を覚える結末が待っていて。まさにリカバリー中の青山さんだからこそ書けたと感じる最高の物語。
世界中が大きな痛みを分かち合った今、カバヒコは私たちの前に現れた物言わぬ救世主なのかもしれません。
──光文社 文芸編集部 光英麻季
2024年本屋大賞ノミネート
『リカバリー・カバヒコ』
著/青山美智子
光文社
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