週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.144 精文館書店中島新町店 久田かおりさん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 精文館書店中島新町店 久田かおりさん

七帝柔道記II 立てる我が部ぞ力あり

『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』
増田俊也
KADOKAWA


 ぱっと見、どんくさそうなのであまり信じてもらえないが、実はワタクシ体育会出身である。青春ドラマの主人公のように汗と涙の日々を過ごしていたこともあるし、自分なりに全力で部活に打ち込んでいた、と思っていたのだけど、〝彼ら〟に比べたらそんなものは幼稚園のお遊戯並みの打ち込み具合だったと思わざるをえまい。

 そう、その〝彼ら〟の青春記が11年ぶりに更新されたのだ。旧七帝大で戦前から脈々と続く寝技中心の柔道。きわめて危険で、とことん泥臭いその七帝柔道に文字通り人生を賭けた男たちの物語。

 前作『七帝柔道記』を読んだときに感じた熱波が今回も怒涛の様に押し寄せてくる。いや、その圧力は前作以上に強く濃く重かった。

 幼少期から始めることの多い武道のなかで、大学から始めてもレギュラーが狙える特異な存在が七帝柔道。経験よりも体格よりもただただ努力だけがものを言う世界。

 無骨に地道にひたすら寝技を極める漢たちの、その汗臭さに心底まいってしまう。これはもうある意味「恋」なのかもしれない。柔道をするためだけに北大に進学し、そして進級せずに4年という時間を柔道のためだけに費やす。地獄のような稽古の日々。普通の人間じゃ耐えられないほどのケガや故障に泣く日々。悲壮な覚悟でただただ1勝を目指し続ける。

 それでもなぜか彼らはどこか楽しそうでもある。潰され押さえつけられ締められる苦痛の裏側に何があるというのだろうか。それを知りたくてずっと追いかけて読み続ける。いったい何が彼らをそこまで惹きつけるのか。それを言い表す言葉がまだ思いつかないけれど、確かにそこにある何かの小さなカケラくらいは拾えた気がする。

「この七帝戦が終わったら退部し、大学も辞める」そう決めた主人公にとって最後の試合では彼らと一緒に泣きに泣き、学生たちから嫌われている事務職員、ジムジムのヌシの言葉に思わず笑顔になる。

 自分では絶対に体験できない4年という時間を共に歩ませてくれてありがとう、と言いたい。個性の塊である登場人物たちの中で、アタクシの推しは和泉さんと後藤さんである。推しポイントは読めば納得してもらえると思うので、ここには書かない。一見地味な二人こそ、七帝柔道ならではの存在なのだ。

 

あわせて読みたい本

八秒で跳べ

『八秒で跳べ』
坪田侑也
文藝春秋

 熱血漢で根性があってチームメイトとの絆を大切にする。そんな従来のスポーツ小説主人公とは真逆のキャラを持つ宮下景。仲間を見下し、練習には手を抜く。そんな景の、不思議な同級生との出会いや、ひたすら泥臭い努力を続ける仲間の進化を目の当たりにすることによって少しずつ変化していく心の動きがリアル。好きなことを続ける意味や、将来への不安に惑うすべての人へ、そして暑苦しいスポーツ小説になじめない人へ、おススメ。

 

おすすめの小学館文庫

転がる検事に苔むさず

『転がる検事に苔むさず』
直島 翔
小学館文庫

 検事が主人公、と聞くと真っ先にキムタクのあのドラマを思い浮かべてしまうが、この小説の主人公も仕事はできるのに出世街道から外れた冴えない久我周平(名前もちょっと似ている)。弁護士よりわかりにくい「検事(検察)」の仕事。その検察から見た警察、警察から見た検察、その両方の視点が交差して物語が立体的に浮かび上がる。罪に対するスタンス、罪と向き合う立場、それぞれにそれぞれの「正義」があって、それぞれにそれぞれの「矜持」があるのだ。

 

久田かおり(ひさだ・かおり)
「着いたところが目的地」がモットーの名古屋の迷子書店員です。


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