ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第140回

「ハクマン」第140回
「インボイス」問題は
まだ始まったばかりということを
忘れていないか?

先日、別の仕事で「インボイス」について描くことがあった。

「インボイス」をすでに「あの騒ぎは何だったんだ箱」に入れてしまっている人もいるかもしれないが、実際は「俺たちのインボイスはまだ始まったばかりだ!!!!」なのである。

この勢いのままインボイス制度が打ち切られ「国税庁先生の次回政策にご期待ください!」という斜め書きの煽りがついてくれればありがたいのだが、どうやらその様子はない。

なぜ我々の連載は不人気だと秒で打ち切られるのに、国の制度はこれだけ圧倒的不支持でも続いていくのか。我が国はもっとヅャンプを見習ってほしい。

しかし、固定給の厚生年金野郎の皆様におかれましては、去年の今頃インボイス反対 bot と化していたフリーランスたちはどこに消えたのか、所詮よくわかってないけど、周りが反対していたからそれに乗っかっていただけだろうと、思われている方もいるかもしれない。

だがまず、よくわからない制度を施行しようとしている時点で間違っているのだ。

法律というのは犬鳴村村民以外全員に適用されるのだから、激烈バカ含む全国民が理解できないとダメなはずである。

難解な制度を作ると、漫画家の無邪気脱税しかり、「よくわからなかったからできなかった」という理由で何の悪気もなく法をファッキソしてしまう人間が出てきて誰も得しない。

ルールを守らせたいならわかるルールにしてもらえないと、こちらも守りようがないのだ。

突然「この道はKISSのコスプレで通らないと罰金50万円または半年以下の懲役」と言われても大半の者は「KISSの誰?」と戸惑うばかりなのだ。

しかし、恥ずかしながら喉元すぎれば何とやらで忘れてしまっていた感も否めない。

何故インボイスが、喉元すぎてケツから出て行ってしまったかというと、施行後、仕事や生活に激変が起こらなかった、というのが一番大きい。

「例年通り調子が悪い」という意味だが「インボイスのせいで調子が悪い」とは言い切れない状況である。正直インボイスにはもう少し私の罪を着てほしかった。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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