◎編集者コラム◎ 『忠臣蔵の姫 阿久利』佐々木裕一
◎編集者コラム◎
『忠臣蔵の姫 阿久利』佐々木裕一
本サイト〝新刊エッセイ この本私が書きました〟で、佐々木裕一先生が筆を執った、【忠臣蔵の執筆は時代小説作家の義務】というタイトルの一編。
冒頭に、《題名は、ある編集者さんから言われた言葉です。》と記されていますが、大人気作家さんに対して、ひどく偉そうに提案したと思われる大層失礼な人物は、おそらく担当者である私ではないかと……(大汗)。
しかしその結果、単行本上下巻、ともに288ページという大作が生まれたのですから、どうか平にご容赦賜りたくお願いします。
本書は、2019年12月に刊行された『忠臣蔵の姫 阿久利』と、21年4月に刊行された『忠臣蔵の姫 阿久利 義士切腹』を一冊に合わせた内容となりますが、なんと640ページもある、非常に厚みのある文庫となりました。大作と云うにふさわしい厚みではないでしょうか。
もちろん、厚みだけが大作にふさわしいわけではありません。
「忠臣蔵」といえば、やはり切った張ったが有名な物語。殿中松の廊下・吉良上野介への刃傷シーン、大石内蔵助を筆頭とする赤穂浪士の討ち入りシーン、堀部安兵衛の助太刀決闘シーンなどがすぐさま目に浮かびますが、本書は男臭い油分を極力取り除き、権力と闘う女性を描いた「新しい忠臣蔵」なのです。
なぜ、浅野内匠頭の奥さんである阿久利を主人公にしたのか――その理由は、上記の佐々木先生のエッセイをご一読いただくとして、ここでは権力と闘うひとりの女性を簡単にご紹介したいのです。
赤穂藩主の内匠頭に輿入れした広島藩の姫・阿久利は、決して昂らず、浪士を煽ることもなく、法を守り、礼節を保ち、暴力を(言葉の暴力も)否定し、理知的に話し合いで解決しようと、ひとり静かに闘います。
時には疲れたり、涙をこぼしたりもしますが、粘り強く諦めません。何度失敗しても、絶対に立ち上がる。周りが止めようとしても、一心不乱に正面から向かっていくのです。
こんな阿久利の生き方は、一度の失敗も許されず、すぐに結果を求められがちな昨今では、なかなか認められないでしょう。
誰からも評価されず、むしろ面倒臭がられても、希望を捨てない阿久利を支えている動機は一体何なのか?
それは本書をお手に取ってからのお楽しみ。
従来の「忠臣蔵」イメージが180度ひっくり返る、著者入魂の力作をぜひお読みいただければ嬉しく思います。
──『忠臣蔵の姫 阿久利』担当編集者より