ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第148回
編集者という生物は
「引継ぎ」が苦手、
という習性を持っている
魚は泳ぐのが得意で歩くのが苦手な生物だ。
私も陸の生物でありながら、走るのは遅いし、何もないところでコケるので、魚にも気を抜くと横になって浮かんじゃう奴がいるのかもしれないが、少なくとも川や海のそばで体育座りをして見学している魚は見たことがない。
泳ぎに巧拙はあったとしても、歩くのが苦手というのはほぼ全魚に共通していることだろう、これは個魚の能力の問題ではなく、生物としての機能や習性の問題だ。
それと同じように、編集者という生物は「引継ぎ」が苦手、という習性を持っているのかもしれない。
誤解のないように言っておくし、その上で「編集ってクソだな」と誤解してくれて構わないが、件数だけで言えば、漫画業界で起こる事故の大半は作家側が起こしていると思われる。
何せ、漫画家という職業を選んでいる時点で派手に人生を事故らせているのだ。そんな人間が小さな事故など恐れるわけがないし、むしろ事故を起こしたという自覚もないままバンパーがない車で走り続けているのだ。
それに対して、編集者というのは基本的に安全運転なので、たまに事故を起こすとこちらの記憶にもそれが残りやすい。
私も漫画家歴15年、自分が起こした事故などディオ様が今まで食った超熟の枚数よりも覚えていないが、完全に編集側が起こした事故ははっきり記憶しているし、事あるごとに蒸し返している。
罪は償えても消えないし、消させまいと何度でもなぞり書きしてくる奴がいるので、やはり事故は最初から起こさないに限るのだ。
数としては決して多くはないが、それらの事故を検証すると、事故現場が「引継ぎ」であることが多く、道路であれば「魔の交差点」と呼ばれるレベルだ。
私は突発休載をしたことがあまりないのだが「編集の引継ぎ失敗による休載」を2回ぐらい経験している。
そして幸いにして「作者急病による休載」はしたことがないのだが「担当編集急病による休載」はしたことがある。
ただ「こちらが引継ぎをミスったため今月は掲載しません」と竹どころか自分の頭を両断されても構わないかのような潔い報告をしてくるならまだいい。
担当が誰にも引継ぎをしないまま異動してしまい、誰も状況を知らないまま、こちらの「しばらく掲載も連絡もないのですがどうなってますか?」の一報で、初めて異変が発覚する場合もある。
本来ならば異変を起こす側が申告するまで誰も異変に気づかないというのは組織として末期である。
屋根裏に住む怪異の通報でやっとその家で起こった殺人事件が発覚するようなものだ。一旦体制を見直すか、解体した方がいい。
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