辛酸なめ子「お金入門」 12.断捨離と買い取りで金運アップを祈願

辛酸なめ子「お金入門」12
類いない感性で世相を活写しつづける辛酸なめ子さんが、お金と仲良くなって金運をアップするべく模索する日々を綴ります!

 自分の部屋の快適性を高めたい……そう思いながら月日だけが流れていきます。資料や本、服や記録媒体、デバイスなど、ものがどんどん増殖する一方です。でも、ここ最近、富裕層の女性たちと縁ができて、ホームパーティに招いていただくことがありました。彼女たちの家に行く度に、あまりにもおしゃれで素敵な空間なので、狭くて乱雑な自宅に帰りたくなくなります。そもそも都内の高級住宅街で、建て売りではなく建築家に依頼して設計した素敵な家に住めるなんて、過去生どのくらいの功徳を積んでこられたのでしょう? 邸宅のインテリアはセンスが良いのはもちろん、全く雑然としていないのにも驚かされます。何か積み上がっていたり床にものが置かれていたりする、ということもありません。見せる収納としておしゃれなトランクが活用されていたり、棚にお皿や洋書などが飾られていたりしますが、全体的にすっきりしています。

 以前、風水アドバイザーの女性に「部屋の中で見えている床面積の割合が多いほど、収入が高い」という説を聞いたことがあります。言われてみると、私がお邪魔したリッチな女性の家は、だいたい床面積がかなり広くて飼い犬や猫が走り回っていました。実体験ですが、家の中にごちゃごちゃした箇所があると、そこにエネルギーが吸い取られてしまいパフォーマンスも落ちてしまいます。きれいで整った部屋に住むことで、富んでいる人はますます裕福に……。逆に片付いていないと、仕事の能率や集中力も下がって負のスパイラルに入ってしまいます。

 わかってはいても、腰が重くてなかなか片付けられないのが人の性。先日は、手相占いの方にも「部屋か人間関係を整理したほうがいいですよ」とアドバイスいただきました。小指の下の水星丘と呼ばれる箇所が、財運を表すそうです。そこがふっくらしていて、きれいな太い線が入っているのが理想とされます。「富裕層の友の話を聞きながらじっと手を見る財運線」という心の短歌が浮かびました。

 私の財運線は、細かくて切れ切れでした。細かい線がゴチャゴチャしているのが、整理しきれていない人間関係や部屋を示しているようです。もしかしたら手で撫でさするだけでも効果があるのかも、と思いさすってみましたが、とくに変化はありません。部屋を片付けないままラクしようとしたことに対する警告か、小指の下に赤いギザギザの雷のような線が出現。いよいよなんとかしなければ、と危機感が高まりました。

 財運を高めつつ、現実的に臨時収入を得るのに良い方法は、不要なものを処分することです。断捨離で金運がアップする、というのは風水的には基本のテクニック。去年くらいから少しずつ、たまりまくった服やアクセサリー、食器などを売ったり寄付したりしていますが、処分しても処分しても部屋が片付かないのが不思議です。

 無意識のうちに買ってしまうのが靴下やヒートテック、タイツの類。こちらは去年のうちにまとめてゴミ袋2つ分を処分しました。しかしそのあと、冬になったとき、靴下店でなぜか黒やベージュ以外の色もののタイツが品不足になっていたので、捨てすぎたかもしれないと一抹の後悔がよぎりました。長年買い集めた大量のアクセサリーは、天然石系が多かったですが高級ブランドではなかったので、リサイクルショップに1袋1000円で引き取ってもらいました。数十万円ぶんはあったと思いますが……。物の価値というのは、よほどプレミアな品でない限り、買った瞬間から激減してしまうのが世知辛いです。そのショップには壊れかけのデジカメを1台500円で買い取ってもらえたのがまあまあ良かったです。

 リサイクルショップではあまりにも買い叩かれるので自己肯定感が下がってしまい、安くても良いから買ってもらえればありがたい、という心境に。去年から今年初頭までは、なんでも引き取ってくれそうな買い取りショップにまとめて持っていっていました。商業施設の一角のEというリサイクルショップは、わかりやすい高級ブランドは値が付きますが、セレクトショップの服などは1着数十円という渋さ。キャンペーン中だから上乗せすると言われましたが、査定してもらったら10着500円という金額でした。ほとんどがメジャーなセレクトショップで買ったアイテムで、中には KENZO のトップスもありましたが、こんな数百分の一以下に安くなってしまうとは。お店には「ISSEY MIYAKE の PLEATS PLEASE は最低5000円保証」という貼り紙があって、いっそこれから着るものは ISSEY MIYAKE で揃えようかと思ったくらいです。

 1月にまたEで買い取ってもらったときは、数万円の時計が300円。セレクトショップの服も「ノーブランド衣類」と査定され1着30円。そしてセレクトショップで買ったマイナーなブランドのバッグも3点で50円。だいたい数万円はした品です。世知辛い査定をされるたび、自己肯定感が削られていきます。唯一、大昔に買った ISSEY MIYAKE の BAO BAO ポーチに500円の値が付きました。こんなに ISSEY MIYAKE の評価が確立されているとは。この買い取りショップに大量の服やバッグを持っていっても毎回700~800円にしかならないので、売った帰りに同じフロアの100均で買い物するという流れができて、回している経済が小さくなっていきました。これがミクロ経済というやつでしょうか(たぶん間違っています)。でも、次々と不要な物を処分していると、寝起きの体感が軽くなった気がします。

 次に着手したのは部屋に積み重なっている大量の本でした。本が好きなので、なかなか手が付けられないでいました。何年もそのままになっているのでもう読まないと思いきや、時々おすすめ本を紹介する仕事が来るのでうっかり処分できません。とはいえリビングでかなりの存在感を放っているので、心を鬼にして150冊ほど古本屋さんに買い取ってもらうことに。結果的には全部で7000円弱になりました。新しめの小説や資料的価値のある年鑑など500円前後になりましたが、ほとんどが50円、100円です。買い取り不可の0円も40冊ほどありました。著名人の本でも0円になったりするので基準がわかりません。思ったのは、絶対に自分の本は査定に出せない、ということ。ここで0円なんてついたら、半年は落ち込みそうです。不思議なことに結構本を売ったはずなのに部屋の本の山にはそれほど見た目の変化が見られません。こちらも氷山の一角だったのでしょうか……。

 これまでずっと安く買い叩かれてばかりでしたが、たまには別の古着買い取りショップで査定してもらおうと思い、亀戸のTというお店に持ち込みに行きました。ちなみにいつも買い取りショップへは、重いですが電車に乗って手で運んでいます。タクシーなんて乗ったら一瞬でマイナスになってしまいます。今回はワンピースやスカート、トップス、靴など15点ほど持参し、数時間ほどの査定タイムの後にお店に行ったら、なんと3200円もの値段がついていました。Eでは10着500円という適当な査定でしたが、この店ではファッションにそれなりに詳しそうな店員が、セレクトショップ系のブランドでも一点一点丁寧に見積もってくれたようです。IENA のパープルのブラウスは200円、ビューティフルピープルのリネンのスカートは400円、エレンディークのスカートは400円、ユニクロCのスカートも50円ですが値が付きました。驚いたのは、エキナカで買ったよく知らない SUM1 STYLE というブランドのメッシュのネイビーのスカートに700円という高い値が付いたこと。実は人気ブランドだったのだと思うと今さらですが売ったのが惜しくなってきます。Eで激安査定されて下がった自己肯定感が少し復活しました。

 この勢いで勇気を出して、質屋でもあるDの銀座店に、ブランド品を持ち込んでみました。ヴィトンの iPad ケースと、少し前に流行ったオメガ × スウォッチです。店員の女性は、私が持ち込んだ品を一瞥した途端テンションが低くなったように見えました。箱を調べたり、どこで買ったか聞いたりして、パソコンで詳しく市場価格を調べているようでした。しばらくして言い渡されたのは、革の iPad ケースは約十分の一の10000円、オメガスウォッチは12000円という結果です。「オメガ × スウォッチは一時は品薄でしたが、今は普通に流通しているので値崩れしています」とのこと。1年くらい買い取りに出すのが遅かったようです。今回の2つのアイテムは、買い取りはしてもらわず、そのまま持ち帰って保管することにしました尾

 断捨離を続けていると、今まで風景と化していた不要品が目に付くようになってきます。ふと、パソコン周りに何十年も置かれているMOディスクやフロッピーディスク、CD-ROM などが気になってきました。フロッピーは90年代前半が最盛期で、MOディスクも少し時期がかぶりますが、2000年代初頭まで使われていた記録媒体。CD-ROM はその後に台頭してきたメディアです。今は USB メモリなどで代替されていてほとんど使うことはありません。それぞれ未使用品が家にたくさんあって、処分先を探していたのですが、検索したら秋葉原の買い取りショップが引き受けてくれそうなので、また自力で持っていくことに。おそらく全部で重さ20キロくらいになり、手で運ぶのは大変でしたが、買い取りの収入がマイナスになってしまうので、タクシーに乗るわけにはいきません。買い取りショップはレトロゲームなど扱っている地下のマニアックなお店で、中に入ったらかなり狭いスペースでおじさん3人が椅子もなく立ちっぱなしで査定している、というなかなかハードな環境でした。でも、年齢的にもベテラン感が漂っていて安心して査定を任せられます。多数の記録媒体、未使用の携帯、英語教材など合わせて38点で2500円という結果になりました。MOは1枚30円。今の時代に値が付くとは思わなかったのでありがたいです。他の品も結構安い査定になりましたが、重さを考えると持って帰りたくないのでそのまま承諾しました。

 ところで今回、デッドストック的な記録媒体を大量に買い取ってもらったところ、ごぶさたしていた編集部から単発の仕事依頼が数件来たので驚きました。やはり断捨離に開運効果がある、というのは本当のようです。査定額が低くても、仕事が入ってくれば問題ありません。次からは、何か捨てたら仕事が来ると想定してタクシーに乗っても良いような気がしてきました。
 こんなにいろいろ処分しても相変わらず部屋は雑然としていて、片付いた感がありません。でも、仕事を増やしたくなったらまた何か捨てれば、現実が動くかもしれないと思うと、ゴチャゴチャしているのも「伸びしろ」に思えてきました。 まだたくさん雑誌の山、書類の山、バッグの山、服の山がありますが、それらを一気に処分したら運気が上がりまくって大変なことになりそうです。これからも引き続き小出しに処分して、無理のないペースで仕事をしていきたいです。

今月の一言

部屋の乱雑さは伸びしろでもあります。無理のないペースで断捨離することで、少しずつ仕事運が高まります。

 

辛酸なめ子「お金入門」12 イラスト

(次回は8月24日に公開予定です)

 


辛酸なめ子(しんさん・なめこ)
1974年東京都千代田区生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部卒業。漫画家、コラムニスト、小説家。著書に『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』『女子校礼讃』『電車のおじさん』『新・人間関係のルール』『大人のマナー術』『煩悩ディスタンス』などがある。
Xアカウント@godblessnameko

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