◎編集者コラム◎ 『突きの鬼一 赤蜻 』鈴木英治
◎編集者コラム◎
『突きの鬼一 赤蜻 』鈴木英治
お待たせいたしました。
昨年8月、二冊同時刊行された突きの鬼一シリーズは、瞬く間に各巻続々重版。好調な滑り出しに、編集者たるもの、「よし、畳みかけるぞ」と著者の尻にムチを入れるのは当然のことでありましょう。すぐさま三巻目を世に出すべきところ、悪夢の9ケ月空き。愕然としました。すぐ書く、来月には間違いなく脱稿、と騙され続けてこの有り様。作家とは、なんと食言を厭わぬ生き物でありましょうか!まずは、新シリーズをお読みいただいた読者諸兄姉に深くお詫びを申し上げて、再度のお付き合いを切にお願いする次第であります。
舞台は尾張徳川家の北隣に位置する美濃北山三万石という架空の小藩。あるじは博打に目がない百目鬼一郎太(どうめきいちろうた)二十八歳。北山藩は特産の寒天が藩の財政を底上げして、実収十万石。だが、年貢は依然として六公四民で、藩は百姓の犠牲の上に胡坐をかいていた。そこで一郎太が百年の計として年貢半減令を打ち出すが、これが大誤算。一郎太は城下外れの賭場で国家老・黒岩監物(くろいわけんもつ)が放った暗殺隊に襲撃される。"秘剣滝止(たきどめ)"の遣い手にして、突きの鬼一と異名をとる一郎太は三十人近くを斬り捨てて虎口を脱するが、襲撃者の中に年貢半減令に賛同する城代家老・伊吹勘助(いぶきかんすけ)の倅・進兵衛(しんべえ)がいたことに愕然とする。家臣の本音を読み誤った一郎太は藩主の座を降りることを即刻決意、実母桜香院(おうこういん)が偏愛する弟・重二郎(しげじろう)に後事を託して江戸へ向かう。中山道板橋宿の手前で追い剥ぎに襲われていた駒込土物店(こまごめつちものだな)の差配・槐屋徳兵衛(さいかちやとくべえ)を助けた縁で根津に家作を借り受け、江戸家老・神酒五十八(みきいそや)の嫡男で、一郎太の供をつとめる藍蔵(らんぞう)とふたり、江戸暮らしを始める。徳兵衛は神君家康とともに江戸にやってきた草創(くさわけ)名主の家柄で、北町奉行所の定廻り同心・服部左門(はっとりさもん)とともに町の揉め事をおさめる、なかなかの人物だ。日々の賄いは徳兵衛の一人娘・志乃(しの)が精魂込めて支度する。至れり尽くせりの江戸暮らしに、つい気も緩み、江戸賭場八十八か所巡りを企てる一郎太。だが、事態は、あくまでも一郎太の命を狙おうとする桜香院の江戸入りで動き出す。五十八から、監物の用人が黒岩家配下の羽摺(はず)り(忍び)の里に向かったとの一報がもたらされる。羽摺り四天王といわれた忍びの手練れ四人が木曽御嶽山麓の隠れ里を出たのは、それから間もなくのことだった。