◎編集者コラム◎ 『鴨川食堂まんぷく』柏井 壽

 ◎編集者コラム◎

『鴨川食堂まんぷく』柏井 壽


鴨川食堂まんぷく

 ふと、過去の記憶がよみがえること、ありませんか。この前、通りかかった定食屋さんから美味しそうなダシの匂いが漂ってきたとき、高校時代の修学旅行を思い出しました。担任の先生が、新大阪の駅構内にあるうどん屋さんで、きつねうどんをご馳走してくれたんです。そのときはじめて関西ダシのうどんを食べたので強く印象に残ったのだと思いますが、今まで意識していなかったのに、匂いを嗅いだだけでぽっと思い出せるものなんだ、と不思議な気持ちになりました。

 人の記憶は、五感と深く結びついていますよね。中でも、食事は生きていくためには欠かせないため、食に関する記憶はかなりあるのではないでしょうか。誰とどんな場所で、いつ食べたか。なんとなくは覚えているけど、奥底に埋もれてしまっている記憶も多いはず。でも、あるきっかけで、もう一度あの料理を味わいたいと思うことがあったら──。

「鴨川食堂」の店主である鴨川流と娘のこいしは、その「もう一度」に応えてくれます。「思い出の味」を探す人々の求める料理を再現してくれる彼らの物語は、なんと本作で6作目。今作の『鴨川食堂まんぷく』は、幼馴染が作ってくれたたらこスパゲティを求めるアイドルや、過去に犯してしまった罪を償うため焼きおにぎりを探している男性などが登場します。

 そしてなんと、オビに俳優の忽那汐里さんからのコメントを掲載させていただきました! ドラマの「鴨川食堂」でこいし役を演じられた忽那さん。最近は海外でご活躍されていらっしゃいます。ご多忙の中、ありがとうございました!

 さて、本シリーズには依頼人が求める料理のほかにもたくさんの料理が出てきますが、そのすべて、著者の柏井さんが実際に作ることのできる料理だそうです! 料理がほとんでできないわたしからすると、すごすぎますね……。食に高い関心を寄せておられる柏井さんだからこそ、料理を味わう描写がとても美味しそうに感じられるのだと思います。

 今まで「鴨川食堂」を読んだことのない方も、シリーズのファンの方も、ぜひ一度『鴨川食堂まんぷく』をご覧ください。

 2冊同時刊行の『カール・エビス教授のあやかし京都見聞録』もよろしくお願いいたします!

──『鴨川食堂まんぷく』担当者より

☆スペシャル対談☆ 角田光代 × 西加奈子 [字のないはがき]と向きあうということ。vol. 1
【花火、扇風機、プール教室…】「子どものころの夏休み」を思い出す小説4選