ゆっきゅんの毎日今日からちゃんとしたい日記 ☆2026年3月後半★

3月12日
名古屋に来たのに財布忘れた。文化のみち、と呼ばれる区域で立ち尽くす。現金がなくてもやり過ごせる日なんて東京にはたくさんあるけれど、私が観に行きたい建築が電子マネーに対応しているとは思えない。200円で済むのに、金がない。キャッシュカードがなくてもATMでお金をおろす方法を調べて、判断力が低下して借金を申し込みかけたが本人確認書類を撮影できないので借金もできなかった。本当にどうしようと途方に暮れていたら、兄家族が名古屋在住であることを今更思い出した。なぜ忘れていたのか、そっちが不安になる。兄の配偶者にLINEをしてみるが、既読がつかない。兄に電話をかけたことなど人生になかったが、兄に電話してみると、たまたま配偶者が体調不良で在宅勤務なのだという。この危機的状況を打ち明けると、驚きもせずただ笑っていた。私の家族は皆、おだやかで落ちついている。ほんとごめん現金を貸してくださいとお願いすると、おん、ええよええよと言い、見る?と即座に通話をビデオ通話に切り替えた。去年生まれた娘──可愛い姪っ子の姿をiPhone越しに私に見せてくれた。可愛くて指が勝手に何枚もスクショしていた。カメラロールで見返すと、はっきりと破顔している叔父の姿が左上に小さく写っている。
心で姪に呼びかける。あのな、君の叔父は、財布を忘れたまま研ナオコのコンサートのために名古屋に来て、お父さんに現金を借りるような30歳なんだよ。
兄の家に辿り着くと、マンションの玄関まで姪と共に降りてきてくれた。初対面の私に抱っこされた姪は爆泣き。兄の腕に戻れば泣き止み、私の腕に来るとやはり爆泣き。兄は名古屋に来るときはいつでも家に泊まってくれたら良いよ、とか言っていた。私は家族と仲はいいけど、兄と二人で何を話したらいいか、別に困らないけどよくわからないまま生きてきた(まあ生まれてきたのがゆっきゅんという弟だったから、兄は困惑したこともあったかもしれない。知らない。)ので、なんか、そんな感じなんだ。と思った。
母親はこの二人が仲良くしてるのを見たいだろうから、兄と姪と三人で撮った写真を送ったら喜ぶんだろうなと予想した。実際そうだった。つまり私は今日、財布を忘れてミラクル親孝行をした。
現金を手に入れて(PayPayでその場で送金した)、まず名古屋陶磁器会館に行き、そのあと、閉館までわずかな時間になってしまったけど、文化のみち双葉館(旧川上貞奴邸)、文化のみち撞木館を見学した。ラックが充実している。
そのまま歩いて名古屋の喫茶ボンボンへ行った。17時過ぎ。入り口から見て対角線上にある奥の席に通された。たくさんのお客さんがいる。老舗の歴史を感じさせる店内の木壁、「フランスの味 高級洋菓子」と書かれたショーケース。茶色で縁取られた赤いソファ。レースカーテン越しに眺める夕霞。間仕切りに等間隔に並んだ観葉植物。入り口付近のソファは赤いベロアの上に白いレザーがのっていてホワイトの板チョコみたいになっている。四人席だけど二人客が一番多くて、あとは二人席に一人でいる人。私はたまたま四人席に一人でいる。座席は低め。遠くに東郷青児の作品が飾られている。私は柱に隠れている客以外全員を見渡せる。キョロキョロしている人は、遅れて来た誰かの女友達。
頼もうとしたミルクレープとイチゴタルトは、どちらも売り切れ。6×7行で40個のケーキがメニューに記載されていたけど、品切れのものの方が多いので、今あるものだけをお伝えしますと言って、20品くらい店員がスラスラ教えてくれた。プロい。スペシャルマロンとボンボン生ロールを食べた。ボンボン生ロールがうますぎた。
ほとんど音は聞こえないテレビの相撲を夢中で見ている仕事帰りらしき二人組。テーブルをひとつ挟んだ先の正面にいる。店の中央に位置する二人にとって、テレビは前と後ろの上方にあるから、それぞれが正面を向いていれば同じ相撲の映像を別の画面で見ることができる。でも、一緒にテレビを見るってそういうことじゃないんだよね。ずっと片方の人が振り返って私の真上にあるひとつのテレビを二人で見ていた。右には、二人で来て一人ずつが読書をしている常連の熟年夫婦。向こうのテレビの下にはオシャレしてきて可愛く写真を撮る女の子。髪も唇も赤いおばさん。新聞を広げるおっさん。たったの60分制だから、あんまりだらだらしてる空気感の人はいない。この言い方をすれば当たり前だけど、来たくて来てる感じの人が多い。パソコンで作業をしている人はいなかった。
リチャード・リンクレイター『ブルームーン』を観た。偉大な作詞家の伝記映画だけど一晩の話で、ミューズとなる若い女性エリザベスも出てくるが二人の恋愛が進行するとかでもなく、諧謔おしゃべりクソジジイのイーサン・ホークがずっと喋ってるだけといえばだけなんだけど、せつなじじいすぎて、私もはじめてせつなじじいになった。じじいとして描かれてるけど47歳の役で、47ってまだじじいではないよねとも思った。詩的な言い回し、みたいなのが監督から観客へのウィンクみたいに見えると一瞬で醒めるけど、もうこの人物自体がふざけた喋りしかできないのですってわかるから切なかった。自分の面白で夜を乗り越えてきたね。ていうかやっぱり、作詞家っていうのはうざいくらい言葉が溢れてる人の仕事だよ。ああ、友情とか言ってさ、恋とか言ってさ、人生に登場した過去の誰かを解釈してさ、人に面白く話して笑ってもらってさ、言い方を変えて何度も、何度もさ。私はこの映画に出てきた人々の悲しみを知っていて、それを愛している。
3月13日
名古屋二日目。何をしてもいいんだけど、そろそろエッセイを書かないといけなくて、作詞についてのエッセイなので、先に作詞に取り組んでみる。『ブルームーン』の感慨もあり。作詞というか、メモ。主人公の姿を明瞭にするための、メモ。このメモが止まらなくなれば、歌詞は書ける。作詞って作詞頑張ろうって思って頑張るものではないほんとに。描きたい映像とか忘れられない感覚とかを言葉でどうにか追いかけるだけだから、言葉自体のことを考えてる場合じゃないし、言葉がどうとか考えている時の自分は、あくまで自分の場合に限ってだけど、まだ全然だめなとき。
今回の旅行の目的は研ナオコさんのコンサートだった。東京公演が売り切れていたので名古屋まで来た。MCで語っていたことが胸に残る。……「今年で歌手デビュー55年でね、昔『あばよ』って曲でやっと1位になったんだけど、ヒットする前にコントとかで世に出ちゃってたし、いろんなお仕事させてもらうから、いまだに『研ナオコさんって歌も歌ってたんですね』とか言われるんですよ。でもいいんです。その場その場で人が楽しんでくれるならそれでいいんです。私が、自分のことを歌手だって、そう思っていれば、そうわかっていれば、それでいいんです。」……そんなことを言っていた。この会場でその気持ちに一番感情移入したのは私に決まっている。会場を出ると、AEDの上にスマホを固定して、女子高校生が二人でTikTokを撮っていた。
3月15日
リキッドルームのワンマンライブ衣装とグッズについて、YUHEIさんのアトリエでミーティング。「異星人みたいな格好は40歳になっても出来るし、おじさんになってからやる方がかっこいいから、今はもっと素直にモテよう」(私たちが素直にモテるための衣装など作るわけがないのに)とか、「わたし、露出は上半身ならできます」(それは全員そうです)とか、本気で真面目に考えて発言しているんだけど、数秒後に笑えてくる会話みたいなのが何度もあってウケた。3時間話し合って色々決まって、アトリエを出たけどすぐ戻った。「すみませーん、匂わせ用の写真を撮るの忘れてました」と、作業机の様子を「やってる感」とか言って撮っていたらなんか可笑しく思えてきて、即座に「インフルエンサーブランドの名ばかりディレクターが裏でもしっかりやってる感出すために布見本とか置いて演出するやつ」とか言いながら布見本を置いて撮ったりした。特定の誰を思い浮かべるでもないけど、私たちの性格に問題がある。布見本の写った写真は過剰演出だと感じられたので、その前に撮った写真をストーリーズに投稿した。やってる感とか言ったけど、本当にやっているんだよ全部!
3月18日
君島大空と梅井美咲と高橋佳輝さんに向かって、肉襦袢ゲブ美さんが作ったオネエハウスのYouTubeプレイリストを送りつける人間は、この世界にわたしひとりだけだろう。
3月19日
ヒューマントラストシネマ渋谷でティモシー・シャラメ主演最新作『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』を観る。1950年代に卓球のチャンピオンを目指す男の話で、着想源としてはマーティ・リーズマンという実在選手の自伝があるらしい。卓球映画なのかと思ってたら、たしかに試合が物語を動かしはするものの、全く練習シーンがないし身近なライバルもいないし厳しいコーチもいなくて全然スポーツ映画ではない。長期的な悲願の夢があるわけでもない。頭の切れる愚かな若者が、とにかく何が起きても強引に目の前の問題を、執念で乗り越えて飛び越えてゆく、ドデカ負けず嫌い主人公の魅力で駆け抜ける映画だった。窮地に追い込まれた人間に原動力は必要なく、理由なんて考える間に死ぬからやるしかない。諦めが悪い性格の持ち主は、人生に向いている。諦めたら試合終了な世界で、こいつはまじで諦めないから試合終了しない。
試合、不倫、落下、爆走、銃撃、とにかく出来事がありすぎてあらすじなんて正確に覚えていない……アトラクション的な感覚があった。マーティだけではなく、出てくる人みんな愚かなのが救いだったかな。既婚者の幼馴染と二人で命からがら、とうもろこし畑に車で突っ込むシーンがあって、私は「ふざけすぎた季節だ!」と感じた。イルカが歌うところの、ふざけすぎた季節。誰かと過ごしたい季節ナンバーワン。これはふざけすぎた季節についての映画だったのだ。
3月20日
映画は映画館かテレビ液晶かパソコンの画面で観るものだと、自分の中で明文化されていないルールがあったけど、こんなに横になってるならスマホで映画を観れば良いのでは?と気づいて、私はまた一つ自由になった。『ドリームガールズ』を今更初めて観た。やっぱり、DIVA映画には、ひとりが歌い始めた瞬間、それまで舐められていた人の価値が証明されて誰もが見る目を変えて手のひらをひっくり返してしまう、みたいなシーンが必要だよな。
3月21日
新代田FEVERの横のカフェで須藤はる奈さんの個展が開催されているので行ってきた。本人が在廊しているのは聞いていたけど、たまたま夫さんとお子さんもいらっしゃって、私たちは一つのテーブルを囲んだ。私の頼んだチキンが大きくて多すぎたのでみんなで食べて、春のピクニックのような時間を過ごした。はる奈さんの作品はいつも良い。逮捕されるとかではないけどパトカーの前で写真を撮る二人の女の子が描かれた作品を注文した。新居に飾る。
3月25日
『シャトルバス』を録ったスタジオecho and cloud studioで『ログアウト・ボーナス』『いつでも会えるよ』『lucky cat』のレコーディング。たのしい、やさしい、いとおしい、せつない、あたたかい、ふかい、そして、めずらしい時間だった。最後にボーカルの録り直しをするとき、歌い出すほんの寸前、私が手元の小さな電球のスイッチを押してから歌い始めたらしく、君島は「やっぱりこいつはレベルが違う。」と思ったらしい。覚えてない。
3月26日
やっと引っ越しの審査に通って最高。
3月27日
Summer Eyeの夏目さんに初めて会った。タイ料理を食べながらいろんな話をして盛り上がった。私の話はふざけているけどいつも真剣なので。真剣に聞いて受け取ってくれるのが嬉しかった。Red Velvetのアイリーンの昨年9月のパフォーマンスが自分にとってどうすごかったのかを、実演しつつ熱弁したら、ちゃんと聞いてくれたしアイリーンのこと好きになってくれたと思うたぶん。アイリーンが椅子を使って、体と顔を斜めにして、少し目を閉じる。そのとき、人生の倫理が、アイデンティティが、少しずつ揺さぶられる。
そのあとレゲエのクラブに連れて行ってくれて、私はミラーボールを眺めていた。ミラーボールは私たちや空間を輝かせて盛り上げることに集中していて、それ自体はゆっくりと、ゆっくりと回っていることに気づいて、なんか感動した。元ちとせ『ワダツミの木』のレゲエバージョンが流れていたので歌った。
3月29日
パンと音楽とアンティークのケータリングが去年はパンじゃなかったことに驚いたけど、今年はパンがあってよかった。たぶん去年は枯れてたってことかな。あとワゴンで買ったサバサンドがめっちゃ美味しかった。土日にライブをするとお子様連れのお客さんが来やすいのでもっと土日にイベント出ようと思いました! 良いフェス。
3月30日
CUTIE STREETの桜庭遥花ちゃんが生誕祭でFRUITS ZIPPERの松本かれんさんのソロ曲をぱるたんバージョンで歌っているリール動画を見て、可愛すぎて、すごすぎて、涼宮ハルヒに出てくる朝比奈みくるの『恋のミクル伝説』を思い出した。
3月31日
この日、まだあんまり言ってるひとがいない「〜みたいで良い」を言い続けていた。
倖田來未の『Star』はエイベックスの時の後藤真希みたいで良い。IUの『Good Day Japanese Ver.』は歌が上手いリアディゾンっぽくて良い。ILLITの『Almond Chocolate』はゼロ年代中後期のCrystal Kayのタイアップ曲っぽくて良い。bump.yの『ガラゲッチャ』は2NE1っぽくて、悪くて聴いてしまう。CUTIE STREETの『ナイスだね』はZONEのフルーチェのCMソングみたいで良い。アイサチの『BEFORE DAWN』はTommy heavenly⁶のアルバムに1曲ある明るい曲みたいで良い。一青窈のシングル『指切り』のジャケットは安藤裕子が描いたみたいな絵で良い。SINGER SONGERみたいで良いものは、まだ見つけられていない。
(次回は6月11日に公開予定です)
DIVA・作詞家 1995年岡山県生まれ。青山学院大学大学院文学研究科比較芸術学専攻修了。2016年、ルアンとのサントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」を結成。2021年よりセルフプロデュースでのソロ活動「DIVA Project」を本格始動。アーティストとして楽曲を発表するほか、作詞提供、コラムや映画評の執筆など活躍の幅を広げている。アルバムに『DIVA YOU』『生まれ変わらないあなたを』、最新EPは『OVER THE AURORA』。文化放送「武田砂鉄 ラジオマガジン」水曜後半レギュラー。
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