ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第63回
殺すと思った瞬間
殺し終わっていないとダメなのだ
締め切りは乳首みたいなところがある。
「耳は思ったより取れやすい」と刃牙で学んだ人も多いと思うが、これは耳が顔から出っ張っており、引きちぎりやすいからである。
つまり、耳に限らず突起状になっている物は取れやすく、乳首も何かの勢いが余れば、 割とカジュアルに取れてしまうのだ。
ちなみに「何か」を執拗に追及しようとする奴は出世しないし、実家が燃える。
しかし現在は医学が進歩しているので、取れた乳首を犬が食うなど、犬にとって不幸な事故が起きない限りは再びくっつけることは可能である。
だが絵が下手なのに漫画家になってしまった奴がここにいるように、手先が不器用なのに整形外科医になってしまった奴もいるだろう。
実際美容整形もノーリスクというわけではなく、適当なところでやると、鏡に映した私の絵みたいな顔になってしまう恐れがある。
くっつけることは可能でも、医師の腕によって、とても1回取れたとは思えない乳首に仕上がることもあれば、明らかに元あった位置とは違う、ということもあるかもしれない。
しかし取り付けられた乳首の方は「ここが次の部署っすか」と、新しい持ち場で乳首としてやっていく柔軟性がある。
それと同じように、締め切りから2、3日遅れての納品で特に問題がなければ、もはやそのズレた位置が正しい締め切りということになってしまうのだ。
そんなわけで、このコラムも地道に2、3日締め切りを破り続けたおかげで、その程度の遅れでは何も言われなくなってきた。継続は力なりとはまさにこのことだ。
そもそも、漫画家の生活に隔週で特筆すべきことが起こるわけがない、と以前にも書いたが、何が特筆すべきことなのかは、個人による。
「血尿」と書いて「日常茶飯事」と読む、ルビの方が長くなっているような生活を送っている人だっているのだ。
漫画家が「日常」と呼んでいるものも、世間から見れば「贖罪」なのかもしれない。
そういえば、先日のコラムで「原稿料が3か月分支払われなかった」という話をした。
サラリーマンであれば給料が3か月出ていないに相当する大事件である。
ちなみに会社員であればこういう時、労基に駆け込むなどの対策が取れる。
だが、作家の場合は「まずどこに駆け込んでいいかわからない」ところから始まり、最初にやることがツイッターに書いて未払い会社が無視できないほど炎上するのを神に祈る、だったりするのでフリーになる時はその点を考慮していただければと思う。