長岡弘樹『風間教場』
まるで中学生のノリ
山形県山形市。わたしが生まれ育ったところだ。大学時代の四年間を茨城県つくば市で過ごしたほかは、ずっとこの土地で暮らしている。
『教場』シリーズを書いているおかげで、何人かの警察官と知り合いになれた。警視庁の方が多いが、地元山形県警の方々とも名刺を交換させてもらったことがある。
山形県警は優秀だ。あるデータでは、犯罪検挙率の都道府県警ランキングで、秋田に次ぎ全国二位となっていた。わたしと面識のある警察官も皆いい人ばかりである。
そうお断りしたうえで、昔わたしが体験したエピソードを一つ簡単に披露したい。
あれは高校三年生の春だった。自転車に乗って帰宅する途中、道路を横断したら、
「おう。おまえよう」
そう突然声をかけられた。
「おまえだ、おまえ。ちょっと、こっちさ来い」
自転車を停めたわたしに向かって手招きをしているのは、二十歳ぐらいの警察官だった。記憶がぼんやりしているが、たしか眼鏡をかけ、少々肥満気味の体形をしていたはずだ。
「おまえよう、いま何した」
「はい?」
「道路ばわだったべ」
「はあ。渡りましたけど」
「その前に、なして止まらねっけのや」
「え?」
彼は、いましがたわたしが出てきた道路を指差した。
「あそごさ標識あっべ。あれ何の標識だ。ゆてみろ」
まだ運転免許を持っていなかったわたしは、道路標識の意味を理解しておらず、その問いに答えられなかった。
「わがんねがったら道路ば見でみろ。線引いであっべな」
「はい」
「んだら一時停止てゆう意味だべず」
「あ、そうですね」
「おまえ、さっき止まったが」
「……いいえ」
「なして止まんねっけ。駄目だべな」
「……すみません」
「名前は? 学校は? 何年の何組や」
といった具合に、わたしは道端でネチネチと絞られたのだった。
それにしても、いま思い返すと、このやりとりは、どうも大人と高校生のものとは思えない。中学三年生あたりが一年坊主に対し、いじめ半分に生活指導をしているようなノリだ。厳しい警察学校で礼節も学んできたはずなのだから、たかが高校生が相手でも、この警察官には、もう少しぐらい大人の態度を取ってほしかった。いや、いまからでも遅くはない。ぜひ『風間教場』を熟読し、警察官としての心得を学び直していただきたい。
ちなみに現場は、山形警察署の目の前だった。もちろん一番悪いのは、あろうことかそんな場所で交通違反をやらかしたわたしである。