辻堂ゆめ「辻堂ホームズ子育て事件簿」第17回「ありがとう『ねんトレ』」

辻堂ホームズ子育て事件簿
添い寝や抱っこをせずに
寝かしつける欧米式の「ねんトレ」。
本当に良いのだろうか?

 2022年7月×日

 言葉が増え始めた娘が、「ゲラ」という単語を覚えた。

 ……という話はいったん脇に置いて、今日は子どもの睡眠について書いてみたいと思う。

 

 今から2年近く前、娘が生後7か月頃のこと。

 私の祖母と母が、自宅に遊びにきた。女4代揃って女子会(?)をしていると、ずり這いをして床を動き回っていた娘がぐずり始めた。お腹はいっぱい、おむつもしていない──、ということは眠いはず。「寝かしつけは抱っこ? 添い寝?」と訊いてくるふたりに向かって、私は「ううん」と首を左右に振り、娘をリビングの続き間である和室に連れていった。そこに置いてあるベビーラックに娘を寝かせ、「おやすみ~」と頭を撫でてからドーム型のシェードを下ろして、オルゴール調の音楽をかける。そして立ち去ってふすまを閉め、娘を部屋にひとりきりにした。「えっ、大丈夫なの?」とふたりに問われ、「2か月くらい前にトレーニングして、もうひとりで寝られるようになってるから大丈夫!」と請け合う。

 それでも「添い寝もせず赤ちゃんをひとりで寝かせるなんて、泣いちゃうでしょう?」「抱っこしてあげないとかわいそうじゃない?」と、祖母と母は半信半疑のようだった。そんなふたりの表情は、次第に驚きへと変わっていった。先ほどまで床でぐずっていた娘は、ベビーラックに収まった直後に安心したように泣き止み、5分ほど機嫌よく足をバタバタさせる音を響かせたのち、そのままひとりですやすやと眠ってしまったのだ。

 当然、トレーニングって具体的には何をしたの、という話になる。そこで私は、「ねんトレ」についての説明をした。赤ちゃんが自力で眠れるようにするためのねんねトレーニング。欧米発祥の育児方法で、おそらくインターネットの発達とともに日本でもその概念が広まったと考えられる。やり方は調べるといろいろ出てくるけれど、私が自分なりに手順を簡略化して実践したのは、①《いつものおやすみ環境》を作って必ずそこで寝かせる、②布団に置く前に縦抱っこや頭なでなでで愛情を注いで安心させてあげる、③泣いていれば5分ごとに様子を見にいき、再び縦抱っこや頭なでなでで愛情を注いでからその場を立ち去る、の3点。トレーニング開始初日は長時間にわたって激しく泣くものの、心を鬼にして1週間も継続すれば、親の力を借りなくてもひとりで寝つけるようになる──と、一般的には言われている。

 私も最初は半信半疑だった。しかし娘の体重が生まれた頃の倍以上になったことと、もともと私自身がせっかちな性格であることが災いし、1日に4~5回×15~30分ほど発生する抱っこでの寝かしつけが、体力的にも精神的にも非常に苦痛になりつつあった。そこで徹底的にリサーチして方法を探ったのち、就寝前から部屋を暗くしておくとか生活リズムを厳格に管理するといった面倒臭そうな手順は省いて、自分流の簡易版「ねんトレ」を試しに実践することにしたのだった。


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辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)

1992年神奈川県生まれ。東京大学卒。第13回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』で第42回吉川英治文学新人賞候補、2022年『トリカゴ』で第24回大藪春彦賞を受賞した。他の著作に『コーイチは、高く飛んだ』『悪女の品格』『僕と彼女の左手』『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』など多数。最新刊は『二重らせんのスイッチ』。

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