作家を作った言葉〔第13回〕安壇美緒
安壇さんは頑張った。
本屋に売ってる本みたい。
作家になってからも、なる前にも、なんとなく心に残るコメントを頂戴したことが何回かある。好みの問題なのだろうが、どれもかなりシンプルで、それゆえに肯定的なニュアンスが強い。
学生時代、大教室の授業で初めて短編小説を提出した時に返していただいたコメントも、そういう感じの言葉だった。
いいところがいっぱいある。
小説家の先生からの講評は、それから複数行にわたって続いた。作品に付けられた星の数自体はさほど多くもなかったのだが、それよりも出だしの一文が、すぽんと自分の真ん中に刺さっていた。
そうかあ、いいところがいっぱいあるんだなあ、と、やたらと素直に受け止めることが出来たのをよく覚えている。
十代の終わりくらいの頃は、自分に自信があるんだかないんだか、だった。部活で書いた脚本の評判がよかったり、散文詩で全国表彰を受けたりはしていたのだが、それはそれとして、所詮は中高生の囲いの中のレベルのお話なんだよな、ということもちゃんとわかっていた。
本物、になれるような人は十代のうちから文藝のフィールドに立っていることを知っていたからである。
そのせいか、作家になりたい、というような強い意気込みを抱いていた時期はなかった気がする。しかし同時に、まあ、いつかはなるだろ、と根拠もなしに勝手に思い込んでいたのも事実である。
私が作家になったのはつい最近のことだが、「ひょっとしたらアリなのかなあ」とホニャホニャながらに信じ続けることが出来たのは、振り返ってみればあの言葉のおかげであるような気がする。
三田誠広先生に感謝申し上げます。
安壇美緒(あだん・みお)
1986年北海道生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。2017年『天龍院亜希子の日記』で第30回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。著書に、『金木犀とメテオラ』『ラブカは静かに弓を持つ』がある。
〈「STORY BOX」2023年1月号掲載〉