作家を作った言葉

作家を作った言葉〔第13回〕安壇美緒
 安壇さんは頑張った。本屋に売ってる本みたい。作家になってからも、なる前にも、なんとなく心に残るコメントを頂戴したことが何回かある。好みの問題なのだろうが、どれもかなりシンプルで、それゆえに肯定的なニュアンスが強い。学生時代、大教室の授業で初めて短編小説を提出した時に返していただいたコメントも、そういう感じの言葉だった
作家を作った言葉〔第12回〕宇佐見りん
 三作目を書いている頃、芥川賞について父方の親戚が祝ってくれたことがあった。祖父の葬儀以降集まる機会もなくなり、コロナ禍だからとZoomで開催することになった。Zoomをつないで飲み食いする会だとばかり思っていたら、ちゃんと式次第があった。伯父がつくってくれたのだそうで、それに沿って皆が作品の感想を述べたり、私から挨拶
作家を作った言葉〔第11回〕朝比奈あすか
 16年前、新人賞授賞式の後に歓談の時間があり、選考委員の藤野千夜さんとお話しする機会をいただいた。大ファンの私はどぎまぎし、「せっかく選んでいただいたのに、すぐ消えるかもしれません」と、場違いな自虐をした。すると藤野さんは優しく微笑み、「作家は、自分で消えない限り、作家なんです。本が出ようが出まいが、書き続けていれば
作家を作った言葉〔第10回〕井戸川射子
 文章を書くのは嫌いだった。読書感想文はあらすじと、気に入った部分を書き終えたら、あとの空白をどう埋めればいいか分からなかった。学校から次々と出される、講演会や何かの感想の用紙は提出期限に遅れないよう、悪目立ちしないよう、意見を薄めた目に優しい単語でマスを埋めるものだった。基礎だと思うものを守った。正しい文章を書く練習
作家を作った言葉〔第9回〕冲方 丁
 本稿を思案するに当たり色々とデビュー前のことを思い出そうとしたが、作家を志す上で必要とした言葉はなく、自然とそうしていたとしか言えない。が、実際に作家となる上で今も指針とする言葉はある。神話学者ジョゼフ・キャンベルの「あなたの至福に従いなさい」だ。至福とは、自分によってのみ見出される自分自身の究極的な「何か」だ。経済
作家を作った言葉〔第8回〕水野梓
 忘れられない光景がある。小学校の校庭に立つ泰山木。ゆったりと枝を広げ、夏が近づくとパカッと音を立てるように大輪の白い花を咲かせた。ある日、その泰山木から同級生の女の子が落ちた。木登りの上手な子で落ちるのもうまく、あちこちすりむいただけで「えへへ」と笑い、まわりを囲んだ同級生たちは賞賛の拍手を送った。私も一緒に拍手をし
作家を作った言葉〔第7回〕小佐野彈
 歌人としてデビューし、その後小説も書くようになったきっかけ──つまり僕の文筆家としての原点が、俵万智さんの第三歌集『チョコレート革命』であることは、これまでにさまざまな媒体で話しまくってきたし、書きまくってきた。でも、どれだけ言葉を尽くしても語り切れないほど、この一冊の本が僕の人生に及ぼした影響は大きい。俵万智さんの
作家を作った言葉〔第6回〕三浦しをん
 小説って本当に自由ですごいものなんだなと痛感した最初の一冊は、丸山健二の『水の家族』だ。中学生のころに読み、だからといって「私も小説家になりたい!」とはまったく思わず、その後もボーッと日々を過ごしていたけれど、小説という表現方法の奥深さ、魅力に気づかされ、ますます読書大好き人間と化すきっかけになったのはたしかだ。長じ
作家を作った言葉〔第5回〕李 琴峰
 文学を志し始めた十代、様々な作家を読み漁った。中でも張愛玲に惹かれた。正直、彼女の小説は当時の自分には難しかったが、いくつかの名言が印象に残った。「有名になるのは早いに越したことはない」。中国語圏を代表する女性作家もそう言っているのだ。その言葉は十代の自分に深く刺さった。実際、張愛玲はかなり早くから文名を揚げた。十八
作家を作った言葉〔第4回〕宮内悠介
 商業ベースに乗っていようがいまいが、作家は作家だしそうでない者は違う。少なくともぼくはそう考えてきた。また、こうも思う。「言葉一つに左右されちゃうのは、それは作家なの?」と。が、当然のことながら、人間はこんなふうに一貫できないし、確信は明日の迷いとなる。流れていた音楽は気づけば消える。ぼくの場合は、十年にわたって新人
作家を作った言葉〔第3回〕綿矢りさ
 世間とか常識とか醜聞への恐怖が見えない壁となって行く手を阻んでいると、いかん、自分の殻を破らねばと焦るけれど、なかなか勇気が出ない。普段ガチガチに〝わきまえた人〟を装っていると、ポロッとわきまえてない本性が周りにバレたときギャップが大きい。人間らしさを周囲に見せていれば世の中の人もそれほどギャップに驚かなくても済んだ
作家を作った言葉〔第2回〕道尾秀介
 小学校時代、同じクラスだったT君が放課後にカメレオンの話をした。「飼ってるから見に来てよ」ランドセルを背負ったままT君の家に向かいつつ、僕は気が重たかった。それまでも彼は、狂犬病の犬がよだれを垂らして走っているのを見たと言ったり、ツチノコを捕まえたと自慢したり、自転車の前輪と後輪が同時にパンクして死にかけたと話したり
作家を作った言葉〔第1回〕佐藤 究
 私の場合、純文学でデビューしたのち、まったく売れない時期が十年以上つづいた。その大半は売れないどころか、原稿依頼すらなかった。そういう状況で何ができるのかといえば、誰にも頼まれていない小説を書くしかない。生活費を稼ぎながら、できそこないの長編を書き、できそこないの短編を書く。プロとは名ばかりの自称作家だ。