『藤原家のたからもの』
【今日を楽しむSEVEN’S LIBRARY】
話題の著者に訊きました!
藤原美子さん
YOSHIKO FUJIWARA
心理学者・エッセイスト・翻訳家。1955年米国プリンストン生まれ。23才の時に数学者・藤原正彦さんと出会い、結婚。3人の子育てをしながら心理学の教鞭をとった。著書に『我が家の流儀』『夫の悪夢』など。共著に『藤原正彦、美子のぶらり歴史散歩』がある。
余分な物は捨てる風潮が
ありますが、物に触れて
いると、糸で引っ張られて
思い出も繰り出されて
くるようで、捨てられない
決して色褪せない
大切な思い出と品々。
夫や子供たちと
過ごした時間が
今、鮮やかに蘇る
『藤原家のたからもの』
集英社
1512円
「三冊の母子手帳」「ニューヨークの銀食器」「赤い子供服」など16の「たからもの」について綴られたエッセイ。どれも品々に込められた思い出が、手触りまで感じられるほど鮮やかに綴られている。そして巻末には夫・藤原正彦さんが「危うし、夫の面子」と題してエッセイを寄せている。そこにあった〈上手くなっている〉の言葉に、美子さんが「上から目線ですよね?」。曖昧にうなずいてしまいました。
大ベストセラー『国家の品格』の著者である藤原正彦の妻・藤原美子は知る人ぞ知る名エッセイストだ。正彦が書くものに関しては必ず、最初の読者になるという。
「真剣に読まされるんです。台所にいても、エプロンを外して、赤鉛筆を片手に必死に読みます。最初の頃は、漠然と何かおもしろくないとか、送り仮名が間違っているぐらいしか言えなくて『送り仮名の美子さん』ってバカにされてました。でもだんだん、出だしはわかりにくいとか、ここを削ってここを膨らませた方がいいとか指摘できるようになって。その中で文章のリズムを覚えたのだと思います。それがとてもいい文章修業になりました。主人も父、新田次郎の文章を読まされ、同じように文章の呼吸を学んだそうです」
正彦の文章に妻の話題が頻出するように、美子のエッセイにもたびたび夫が登場する。両者とも、ユーモアにくるんで相手をけなすというのがパターンで、内容とは反対に仲睦まじい様子が伝わってくる。
「私の父は化学の教授だったのですが、主人との結婚話が出たとき同じ理学部の数学科教授に主人の人柄について聞いたそうです。そうしたら『一生、退屈はしないと思いますよ』って言われたみたいで。それを聞いて父は安心したか心配したかはわからないのですが(笑い)。
大変おしゃべりな人で、私が聞き役に回ることが多いのです。インタレスティングというか、とても刺激的な人ですね。ただ、原稿では自分で言ったおバカなことが私が言ったことになっていることがよくあって。いつか名誉棄損で訴えようと思ってます(笑い)」
このたび出版したエッセイ集『藤原家のたからもの』のテーマは、タイトル通り「宝物」だが、いずれも金銭的に高価なものではない。昔使った料理本、海外旅行で偶然手に入れた雑貨品、息子が着ていた少年野球時代のユニフォーム等々だ。
「主人は、情緒的な文章も書けるし、論陣を張ったりすることもできる。でも私は物語が浮かばないと書けない気がしたんです。今、余分な物は捨てて行きましょうという風潮がありますが、ここに出てきた品々は捨てようと思っても捨てられない。物に触れていると、糸で引っ張られて思い出も繰り出されてくるようで」
美子は自分が得た幸せのおすそ分けをするかのように、家族や友人にまつわる逸話を記す。しかし最後に選んだ一品はそんな予定調和を覆す、ある英国紳士からの「ラブレター」だ。
「タイトルを読んだ人は主人からのラブレターだと思うようです。ラブレターは主人にも見せたのですが、ぜんぜん動揺してくれないんです。骨董品に値がついたもんだぐらいにしか思ってないようで、大いに拍子抜けでした」
素顔を知るための
SEVEN’S
Question-2
Q1 最近読んで面白かった本は?
吉川英治さんの『私本太平記』。義父(新田次郎)の書棚にズラッと並んでいますが、期限付きじゃないと読まないので図書館で借りています(笑い)。
Q2 よく見るテレビ番組は?
スポーツと『ダウントン・アビー』は見ています。
Q3 毎年春には夫婦で京都にご旅行されていますが、好きな場所は?
南禅寺界隈から法然院まで歩く道が好きです。
Q4 運動は?
正彦さんと毎日、寝る前に散歩をしています。家族のチームワークがよくて、子供がいる時はみんなで歩きながらずっとずっとしゃべっています。それと山登り。明日も仲間とスノーシューで信州の車山に登るんです。スノーシューをはいていると、普段行けない場所まで 行けるんです。
Q5 正彦さんに直してもらいたいところは?
いっぱいありますよねぇ。自分で自分のことをしないのに、文句をいうところとか(笑い)。
(取材・文/中村計)
(撮影/矢口和也)
(女性セブン2016年3月24日号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/03/20)