荒木一郎著『まわり舞台の上で 荒木一郎』が記す活動の軌跡。平山周吉が解説!
多才な顔を持つ、荒木一郎。歌手、俳優、作曲家、小説家、プロデューサーなど、その活動は幅広く、破天荒なもの。活動の軌跡と、人生の明暗を語る一冊を、平山周吉が解説します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
平山周吉【雑文家】
まわり舞台の上で 荒木一郎
荒木一郎 著
文遊社3200円+税
装丁/加藤賢策(LABORATORIES)
遊び感覚で芸能界のしきたりを壊した自負がみなぎる書
一九六〇~七〇年代のサブカルチャーシーンが圧倒的に蘇ってくるインタビュー本の秀作である。
荒木一郎はシンガーソングライターのはしりである。デビュー曲「空に星があるように」から五十年だという。東映や日活の映画では存在感ある役者であり、『ありんこアフター・ダーク』の小説家でもあるマルチな荒木一郎の、「不良性感度」全開の語りは、タブー抜きで、とどまることを知らない。
NHKのスタッフと喧嘩になり四度も出入り禁止となった十代の頃から、一家言ある早熟の才能だったことがわかる。強制猥褻致傷容疑で逮捕(後に不起訴)になっても、飄々として不敵な面構えは変わらない。音楽界や芸能界に巣食うしきたりを、「ぶっ壊す」歴史的な役割を果たしたのは自分だ、という自負がみなぎる。それも遊び感覚の自然体なのだ。
巨匠や有力者にも物怖じはしない。大島渚監督の「日本春歌考」に主演した時は、大学生が書いたシノプシスが気に入ったから出たまでで、大島ブランドには否定的だ。大島の「愛のコリーダ」の出演依頼には、「一人の女とずっとやるのやだ」と断った。完璧主義の倉本聰の「たとえば、愛」では、例外的にセリフを変えてもいいという倉本の特別許可が出る。「それじゃアンフェアで面白くない」と、セリフは一字一句変えず、「倉本節じゃなく見せる」という挑戦をやるへそ曲りである。「もうちょっと僕が謙虚にやってれば、日本を代表するスターになれたかもしれないけれどもね(笑)」とは、本気とも冗談ともつかない。
傍若無人そのもののような荒木だが、実はプロデューサー志向が強かった。誰もが手を焼いて敬遠する桃井かおりのプロデューサー兼マネージャーを引き受けて、桃井をブレイクさせる。「桃井かおりのやったマイナス点の処理」で「修行」になった数年間だった。上には上がいる!
荒木が表舞台から消えて約三十年がたった。この本は「日本のエンターテインメントはなくなってる」という告発の書でもある。
(週刊ポスト 2016.12.23号より)
初出:P+D MAGAZINE(2017/01/31)