【著者インタビュー】中野ジェームズ修一『中野ジェームズ修一×運動嫌い わかっちゃいるけど、できません、続きません。』/前代未聞の「読む」エクササイズ本!
コロナ流行後、テレワークやオンライン飲み会など、自宅を一歩も出なくてもいろいろなことができるようになりました。この状態はいわば「軽度の入院生活」のようなもの。運動不足がかつてなく叫ばれる今こそ読みたい、前代未聞な文字だらけのエクササイズ本!
【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】
運動が必要な本当の理由とは? プロトレーナーが初めて出会う「猛者」たちと本気で対話! 新感覚の「読む筋トレ」
『中野ジェームズ修一×運動嫌い わかっちゃいるけど、できません、続きません。』
NHK出版 1400円+税
装丁/米持洋介(case) 装画/金安 亮
中野ジェームズ修一
●なかの・じぇーむず・しゅういち 1971年長野県生まれ。米国スポーツ医学会認定運動生理学士。トレーナーとして卓球の福原愛選手やバドミントンのフジカキ(藤井・垣岩)ペアらを顧客に持ち、伊達公子選手の現役復帰にも貢献。14年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。東京・神楽坂にある会員制パーソナルトレーニング施設で技術責任者を務める。著書に『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』等。178㌢、72㌔、O型。
運動嫌いな人が運動をしないためにする言い訳は本当にバラエティ豊かなんです
巣籠りが常態化し、運動不足がいつになく気になる昨今、「テレワークになってラッキーだと思った人にこそ読んでほしい」というのが、その名も『中野ジェームズ修一×運動嫌い』だ。
東京・神楽坂で会員制パーソナルトレーニングジムを主宰する中野氏が、編集者や看護師、CAや農家等、各界の「運動嫌い」と対談。わかっちゃいるけどできない、続かない彼らの本音を聞き出し、覚醒までも本書は促す。巻末に写真付きの実践編が載るものの、「基本、文字だらけ!」という点で、まさに前代未聞の
それもこれも、〈間違った健康情報〉を鵜呑みにし、
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〈私は子どもの頃からずっと運動ばかりしてきて、トレーナーになってからは運動が大好きな人や、運動しなければいけないアスリートに囲まれて仕事をしてきました。そのせいで、運動をしない人との接点がなくなり、世の中にたくさんいる運動嫌いの人たちの気持ちがわからなくなっていたのです〉という、正直な執筆動機がまずふるっている。
「私は3歳で水泳を始め、体育ではヒーローになり、進学もスポーツでしてきました。勉強でも運動でも、得意な人に不得意な人の気持ちはわかりづらいですよね。それがわからないままトレーニング法だけ書いても意味がないし、まずは相手の話を聞き、
自身、かつては水泳インストラクターの道に限界を感じ、一路フィットネスの本場アメリカへ。だが帰国後にフィジカルとメンタル両面を指導できるトレーナーとして信頼を獲得するには、歳月を要したとか。
「本場で理論も学んだし、きっと引く手
そこで勉強し始めたのが行動変容論です。健康心理士の資格を取り、指導に生かすうちに、成果が格段に上がるようになりました。人間には命令されたい人とそうでない人がいて、特に続けられるかどうかはモチベーション次第なんです」
本書では「編集者編」から「地方都市の営業マン編」や「農家編」まで、各章に3~10名の「運動嫌い」が登場。座談会形式で赤裸々なトークが展開するが、興味深いのは
「これはクライアント中心療法といいます。相手が私と話すうちに問題に気づき、解決方法を見出すのが一番いい。私はそのお手伝いや助言をするだけなんです。
その根底には『過去と他人は変えられない』という考えがあります。トレーナーから命令され、監視されるタイプのジムもありますが、大抵は逃げ出したくなるはずです。私はクライアントと死ぬまで一緒にいたいんですよ。そのためにも『私が貴方を変えるんじゃない、貴方が貴方自身を変えるんです』という姿勢は、本書でも一貫しています」
外出自粛時の活動低下は「入院」同然
一口に運動嫌いと言っても、試しに万歩計で測ると〈280歩〉しか歩かない日もあったという強者から、時々はジムに通い、食事も節制する人まで様々だが、ヨガやウォーキング、腹筋運動にしても、「効率のよいダイエットのための運動とは言えません」と中野氏はピシャリ。尻や太腿や背中等、〈大きな筋肉を鍛えたほうが基礎代謝量が上がり、痩せやすい体質〉になるといい、〈カロリーを消費し、きちんと疲れて、筋肉痛になる〉〈この3点が、運動になっているかいないかのポイント〉だと言う。
「よく『別に全身ムキムキになりたいわけじゃない』と言う人がいますが、なってから言おうよと思うくらい、運動をしないための言い訳ってバラエティ豊かなんですよ(笑い)。例えば『疲れるのは筋肉がないからです、筋肉を鍛えましょう』と私が言っても、『それが疲れるからイヤだ』とか『エステに行くからいい』とかね。体が疲れても脳が疲れても、『疲れた』と同じ表現を使いますが、実は脳の疲れは体を動かす方が取れるんですよ。
ただ、〈時間がない〉という常套句も皆さん言い訳だとわかって使っていて、話を聞くだけ聞けば『これではいけない』と意識を改めてくれる。大人ですから!」
〈電気で筋肉を動かすのは、筋肉をつけるための運動ではない〉、サウナもホットヨガも〈水分が出ただけで体脂肪は減っていない〉等々、私たちの誤解を著者は丁寧に解く。特に〈不便な時代に蓄えた“筋肉の貯金”〉がない40代以下は「60代で要介護」もありうると警告。毎日の筋トレこそが本人の健康や医療財政のためにも〈いちばん合理的な選択〉だと、中高年の5人に4人がロコモかその予備軍と目される現状を、本気で憂う。
「現代人は昔の人より筋肉の厚さも格段に劣りますが、実はアスリートの体にそれを一番感じます。成長期で運動量が多いケニアの子は足の腱が太くて丈夫ですが、日本の若者は『この練習量で故障?』と思うほど腱が細いし、アイドルの男のコの脚でも、女の子か老人みたいに細い。
特にコロナ流行以降は家から1歩も出なくても働けたり、飲み会までできるようになった。この状態は軽度の入院生活みたいなものです。2か月の外出自粛ともなると、大病したときも同然の活動低下です。しかも食事は病院食じゃないから、日常の食事で蓄積した内臓脂肪が今後しばらく経ってから悪さをするのも怖い。だからせめて以前と同程度の活動量は確保してほしいし、その点では5章のCAさんがお友達から言われた言葉、〈年をとったらお金より、友達より、筋肉だよ〉は、まさに至言です!」
それこそ「健康のため」は〈動機として弱い〉という運動嫌いの意見にもめげず、その人なりのモチベーション探しを見届ける名伴走者・中野氏。〈筋肉があると生活が楽になる〉〈何歳からでも筋肉をつけられる〉といった言葉に励まされ、始めることは今日からでも可能だ。
●構成/橋本紀子
●撮影/黒石あみ
(週刊ポスト 2020年6.12/19号より)
初出:P+D MAGAZINE(2020/09/16)