# BOOK LOVER*第16回* 大久保佳代子
私はそこまで読書家ではない。仕事上で読まなければならない小説や好きな人が書いたエッセイをたまに読む程度。子どもの頃、唯一、夢中で読んだのが赤川次郎さんの『三毛猫ホームズ』シリーズ。文章が読みやすくストーリー展開も面白く、ページを開いた瞬間からその世界へ連れて行ってくれた。それが読書の楽しさだと知った。
なので、読みづらく分かりづらい翻訳された海外文学なんて全くもって興味がなかった。
手にしたきっかけは忘れてしまったが、『愛について語るときに我々の語ること』を初めて読んだとき、それまでに感じたことがない読了感を得ることができた。
アメリカの片田舎に住む人々の日常を描いていて、大きな事件が起きるわけでもないし、予想外の展開もない。けれども、そこで生きている人々の生々しさ、その呼吸までもが感じられ、読んでいて息苦しくなることもしばしば。「煙草の火を点けるのに苦労している」だけで胸騒ぎがしてくるし、なんでもない会話のやり取りなのにドキドキしてしまう。大小様々な悩みを抱えつつ、時に前向きに時に自暴自棄になりながら日々をやり過ごしている人々から「生きる」ということを教えてもらった気がする。
この小説には、酒が頻繁に登場する。著者のレイモンド・カーヴァー自身もアルコール依存だったらしい。酒に頼ってしまう弱さや孤独を包み込み背中を摩ってくれるような温かさも感じる。
なんだか落ち着かず眠れない夜に、好きなお酒をちびちびやりながら読むことをお勧めします。
『愛について語るときに我々の語ること』
レイモンド・カーヴァー 著
村上春樹 訳(中央公論新社)
ささやかな日常に潜む愛や怒りをすくい上げ、鮮やかに切り取った傑作短編集。人生の苦味すらも愛おしくさせる筆致は絶品。
大久保佳代子(おおくぼ・かよこ)
1971年生まれ。92年、幼なじみの光浦靖子と「オアシズ」を結成。「めちゃ×2イケてるッ!」でのブレイク後、数多くのバラエティ番組で活躍中。
『まるごとバナナが、食べきれない』
大久保佳代子 著(集英社)今思えば40代前半のあれが最後の恋愛だったかも? 体力・食欲・性欲、あらゆるものが減退していく40代から50代にかけての中年独身女性の胸の内をユーモラスに描いた等身大のエッセイ集。
〈「STORY BOX」2023年4月号掲載〉