医師・和田秀樹による50代から80代までの世代別「人生の指南書」4選
著者の和田秀樹は、東京大学医学部を卒業後、高齢者専門の精神科医などとして30年以上にわたり医療現場に携わっている医師です。その経験から心身共に健やかな人生を過ごすためのヒントを、数多くの著書で発信し注目を集めています。その中から50代、60代、70代、80代の各世代に向けてわかりやすく書かれた「人生の指南書」の4選を紹介します。
『医者が教える 50代からはじめる老けない人の「脳の習慣」』――金言満載の良書
https://www.amazon.co.jp/dp/4799328816
高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医などで多くの患者に接してきた著者は、現在「和田秀樹こころと体のクリニック」(アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリング)の院長を務めています。また、国際医療福祉大学心理学科教授、川崎幸病院精神科顧問でもあるほか、執筆者、受験アドバイザー、映画監督などとしてもマルチに活躍しています。
本書では心身の老化につながる脳の機能のことや、老化予防のアドバイスが75項目にわたり紹介されています。1項目が2Pにまとめられているので読みやすい構成です。
(本書は2014年刊行の『一生ボケない脳をつくる77の習慣』を再編集したものです)
「気が若い人は、見た目も体もいきいきしている」――とは、多くの人が認めるところでしょう。この「気」とは「気持ち」のこと。それはまた「感情」と言い換えることもできますし、さらにそれらは「意欲」や「思考」、それに「創造性(クリエイティビティ)」にもおのずと現れてくるものです。
これら「意欲・感情、思考、クリエイティビティ」を司るのが、脳の「前頭葉」です。
したがって、ある人の「意欲・感情、思考、クリエイティビティ」の如何をみればその人の前頭葉の状態もわかるのですが、一方で「意欲・感情、思考、クリエイティビティ」をいかに若い状態に保つか、いかにコントロールするかによって、前頭葉の萎縮、老化を抑えることもできるのです。
しかもそれは決して難しいことではなく、ライフスタイルや日常の習慣、嗜好や性向、また思考法をほんの少し変えるだけ、修正するだけで意外に簡単にできるものなのです。序章 50代からは「脳の老化」に気をつける より
前頭葉の老化について、著者は医学的にも説明しています。
脳のなかでも最も早く萎縮し始める(=老化し始める)のが、前頭葉です。そしてこの老化(神経細胞の減少の加速)は、なんと40~50代くらいから始まることがわかっています。
「年寄り」どころかまだまだ働き盛りの年代から始まってしまうというのは初めて聞く方には相当ショックだと思いますが、では、この前頭葉が老化すると、どんな症状が起こるの
でしょうか――。
前頭葉の主な機能は、⓵意欲と感情のコントロール、⓶思考のスイッチング、③クリエイティビティ(創造性)です。
それゆえ、前頭葉の老化によって、⓵自発性や意欲が減退する、感情が老化する、⓶ある感情や考えから別の感情、考えへの切り替えが悪くなる・できなくなる、③新しい発想や、創造的なことができなくなる、という症状が起こります。序章 50代からは「脳の老化」に気をつける より
40~50代から前頭葉の老化予防に努め、対策しておいたほうが良いと著者は提言します。では具体的にはどういうことをすればいいのでしょうか?
本書では、脳の老化を防ぐために、「日記に書き『出す』」、「新しい人と知り合う」、「お金は『遣うときには遣う』」などの具体的なヒントが75項目にわたり書かれています。第1章では、50代という人生の折り返し点からは、脳を老化させないためにも、インプット(入力)することよりもアウトプット(出力)が大切だと解説しています。
「今日は誰と会い、どんな話をしたか」「昼に何を食べ、それは美味しかったか」「通勤途中や散歩途中で何を見かけたか」――そんな「なんでもないこと」も、思い出そうとしなければ「記憶にない」ことで終わってしまいますが、「思い出そう」とすれば、必ずや何かしら記憶から引っ張り出されてきます。
日記といっても、何も長々と文章にしなくても、ほんの数行でもかまいませんし、あるいはツイッターのような「つぶやき」の形で書き出すだけでもよいのです。
つまり日記は書き「入れる」ものではなく、書き「出す」もの。
「思い出すトレーニング」と考えれば、三日坊主にもならずに済むのではないでしょうか。第1章 脳の「出力系」を鍛える より
健やかに人生の後半を過ごすためのヒントが詰まっている本書は、50代に限らず全世代におすすめです。本書の巻頭に「感情老化度」テストというチェックシートが付いているので、自分の「感情年齢」を確認してから読み始めてみるのも良いのではないでしょうか。
『60歳からはやりたい放題』――定年後の健康・お金・人間関係の不安が吹き飛ぶ1冊
https://www.amazon.co.jp/dp/4594092322/
60代から第2の人生を楽しむための、健康・食生活・お金・人間関係などに関する知恵が満載の1冊です。2022年9月1日に初版が発売されると、週間ベストセラーで第5位になりました(トーハン調べ)。
定年を迎えたり、子育てが終わる60代は身心の状態や環境が変わると言う著者。そんな60代が快適に過ごすためには「好きなことだけすればいい!」とアドバイスします。「わざわざ病院に行く必要はない」「痩せ型より小太りのほうが長生きする」などの提言に、驚く人もいるのではないでしょうか。
60代以降の日本人にとって、肉食はむしろ様々なメリットがあります。
まず、高齢になると、気力の落ち込みや意欲の低下が進む傾向にあります。その理由の一つは、たんぱく質不足だと私は考えています。人間の精神状態を安定的に保つために大切なのが、セロトニンという「幸せホルモン」です。セロトニンが正常に分泌されていると、意欲が高まり、不安が弱まり、前向きな日々を送ることができます。でも、セロトニンは年齢とともに少しずつ減少していくので、本来は年齢を重ねるほどセロトニンが増える習慣を増やすべきなのに、日本ではその対策がなされていません。
では、どうしたらセロトニンを増やすことができるのでしょうか。
おすすめしたいのが、しっかりとたんぱく質を摂ることです。セロトニンの原料は、トリプトファンというアミノ酸の一種です。このトリプトファンは豆や乳製品、肉や魚などのたんぱく質に多く含まれています。肉はコレステロールを多く含み、動脈硬化や心筋梗塞の原因になるので健康でいたいなら食べないほうがよいといわれることも多いのですが、食が細くなる60代以降の人がセロトニンを増やすために肉を食べるのは、非常に理にかなっていると私は思います。第2章 好物を食べれば脳も体も健康に! より
60代以降の人に欠かさずやっていただきたい習慣といえば、「散歩」です。
コロナ禍で、まったく外出をしなくなった高齢の患者さんが何人かいますが、その人たちは体の衰えが止まらず、現在はボロボロといっていいほどの状態になっています。それほどに、毎日の散歩習慣があるかないかは、筋力をはじめとする生きる力に大きく影響します。
また、室内で運動するよりも屋外の運動のほうが望ましいです。年齢を重ねるごとに幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌量は減っていきます。セロトニンが減るとうつっぽくなることは知られていますが、その対策として効果的なのが「たんぱく質の摂取量を増やすこと」と「日中によく日光を浴びること」です。太陽を浴びるとセロトニンが分泌されるので、気持ちが明るくなります。どうしても部屋から出られない場合は、できるだけ窓を開けはなして、太陽の光を浴びるように心がけてほしいです。第3章 「新しい体験」で前頭葉を活発に より
60代の著者は、意識的に1日最低3000歩を歩くようにしているとのこと。よく言われる「1日1万歩」まで頑張る必要はないと言います。そのほか「認知症、うつ、ガンを怖がりすぎない」など健康に関することだけではなく、「老後の2000万円不足はウソ」、「介護保険の利用をためらう必要はない」など、老後のお金問題や介護に関する提言もわかりやすくまとめられているので、人生後半期の参考になるでしょう。
『70歳が老化の分かれ道』――若さを持続するための必読書
https://www.amazon.co.jp/dp/4908170312/
「70歳が一気に衰える人と若さを持続する人の分岐点」と、著者は本書で語っています。老け込まないための暮らし方、医療とのつき合い方、そして、介護問題など70歳から直面しそうな課題にどう向かいあえばいいかのヒントをくれる1冊です。2022年上半期ベストセラー第1位(日販・トーハン調べ 新書ノンフィクション部門)になりました。
長い老いの期間を健やかに過ごすためには、まず、脳の機能をいかに80代以降も保つかが重要です。あわせて、70代のときにもっている運動機能を、いかに長持ちさせるかということも大切になってきます。
カギとなるのが、70代の過ごし方です。70代前半までであれば、認知症や要介護となっている人は、まだ1割もいません。けがをしたり、大病を患ったりしていなければ、中高年時代のように、たいていのことはできるはずです。
この人生終盤の活動期に努力して過ごすことで、身体も脳も、若さを保つことができますし、その後、要介護となる時期を遅らせることも可能になるのです。元気な80代へとソフトランディングしていくためには、とても大切な時期と言えます。第1章 健康長寿のカギは「70代」にある より
脳の老化を防ぐためには、生活のなかに変化をもたらすことが大切だと著者は言います。
高齢になると、行きつけの店が決まっていて、その店以外は行かないという人もいますが、たまには新しい店にも行ってみることも大切です。同じ店で、同じものを食べているうちは、前頭葉を刺激しません。
読書が趣味の人なら、いつも同じ傾向の本を読むのをやめてみましょう。同じ作家の作品や、同じジャンルばかりを読まず、たまには別の作家や、別のジャンルを読んでみることをお勧めします。第2章 老いを遅らせる70代の生活 より
著者は70代になったら健康診断よりも、心臓ドックと脳ドックを受診することをすすめています。
もし、心筋梗塞や脳梗塞を本当に予防したいと考えるなら、心臓ドックや脳ドックをお勧めします。私は健康診断は無意味だと思いますが、心臓ドック、脳ドックはとても有効だと考えています。
心臓ドックを3年に一度でも受けていると、心臓を取り巻く冠動脈のどこかに、動脈硬化が進んで狭くなっている部分があれば、それを見つけることができるのです。そしてそれを発見できれば、事前にバルーンやステントを使って、血管を広げることができます。
実は、この血管内治療の技術において、日本は世界のなかでもずば抜けて進んでいるのです。海外の要人が、こっそり治療を受けに来るくらいのレベルです。第3章 知らないと寿命を縮める70代の医療とのつき合い方 より
70歳から一気に老け込まないために、そして人生の終盤期をより健やかに過ごすためにも、本書は一読に値するでしょう。
『80歳の壁』――80歳からの生き方を豊かにしてくれるベストセラー
https://www.amazon.co.jp/dp/4344986520/
2022年の年間ベストセラー総合第1位(日販調べ)に輝いた本書には、80歳からの生活を楽しく乗り越えるためのアドバイスが書かれています。日本人の健康寿命の平均は男性72歳、女性75歳で、80歳を目前に要介護になる人が多いとのことです。
「80歳の壁」は高く厚くてもその壁を乗り越える方法はあると、著者は説明しています。
いま日本では、65歳以上を「高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と呼んでいます。でも「高齢者」も「後期」も、なんだか言葉の響きが寂しくありませんか。
ここまで頑張って生きてきたのですから、もっと明るくて希望の持てる呼び方にすべきだと、私は常々思っています。そこで、提案したいと思います。
80歳を超えた人は高齢者ではなく「幸齢者」――。
これなら敬意も表せるし、温かみもあります。運も味方です。年を取ることへの希望も感じられるでしょう。この本では、80歳オーバーを「幸齢者」と呼びたいと思います。プロローグ 80歳の壁を超えていく より
80を過ぎた幸齢者は、老化に
抗 うのではなく、老いを受け入れて生きるほうが幸せではないか、と私は考えています。
前述しましたが、85歳を過ぎて亡くなった人のご遺体を解剖すると、体のどこかにガンがあり、脳にはアルツハイマー型の病変が見られ、血管には動脈硬化が確認できます。ところが、それに気づかず亡くなる人がまた多くいるのです。
つまり幸齢者は「病気の芽」を複数抱えながら生きている、ということです。
病気の芽は、いつ発症するかわかりません。今日は健康でも、明日は不健康になるかもしれません。突然、死んでしまうことだってあり得るわけです。
冷たく聞こえるかもしれませんが、その事実を受け入れたほうがいいと思います。
その上で、明日死んでも後悔しない人生の時間の過ごし方をする、というのが私からの提案です。
明日死んでも後悔しない人生の時間の過ごし方――。
それは、我慢や無理をやめる、ということです。
毎日の暮らしには、いくつもの我慢や無理がありますが、次の三つは、すぐにでもやめたほうがいいと思います。
①薬の我慢
②食事の我慢
③興味あることへの我慢第2章 老化の壁を超えていく より
80歳からは「長生きの薬はない。薬は不調があるときに飲む」、「食事は我慢しない。食べたいものは食べる」、「興味あることは我慢しない。どんどんおやりなさい」と、著者は言います。
幸齢者は老いや衰えを受け入れて、まだある機能(残存機能)で勝負したほうがいいと諭します。最終章では、「残存機能を残すヒント」が50音順のカルタ調に語られていますので、テンポ良く読むことができるでしょう。その冒頭を紹介します。
あ…歩き続けよう。歩かないと歩けなくなる
80代に一番お勧めの運動は「歩く」です。歩くことは足の老化予防だけでなく、心臓のポンプ機能も強化してくれます。すると、脳や体の隅々の細胞にも十分な量の血液を送ることができます。
また、歩くために外出して日を浴びることで「幸せホルモン」と呼ばれる脳内伝達物質が分泌されます。一日30分歩くのが理想的です。朝昼晩に10分ずつでもかまいません。杖や歩行器を使うのもよいと思います。い…イライラしたら深呼吸。水や美味しいものも効果的
イライラや怒りは、寿命を縮める大きな原因です。自律神経には体を活動モードにする「交感神経」と、休養モードにする「副交感神経」があります。イライラすると交感神経が活発になり心拍数や血圧が上がったり、胃腸の働きが悪くなったりします。それを鎮める最も手軽な方法が深呼吸です。脳にたっぷりと酸素を送ることで、脳内の興奮が収まり、交感神経も鎮めてくれます。
後略第4章 高い壁を低くするヒント 50音カルタ より
おわりに
医師・和田秀樹による4作品を紹介しました。いずれの本にも専門的・医学的なことも書かれていますが、わかりやすく説明されています。医師としての知識や経験からだけではなく、60代の著者自身が感じていることや実践していることも書かれているので親しみが持てるでしょう。人生100年時代に健康長寿を目指すためにも、多くの世代の参考になるのではないでしょうか。
初出:P+D MAGAZINE(2023/02/01)