週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.107 広島蔦屋書店 江藤宏樹さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 広島 蔦屋書店 江藤宏樹さん

『こころをそのまま感じられたら』書影

『こころをそのまま感じられたら』
星野概念
講談社

 本ならなんでも好きです。

 いや、文字が書いてあればふりかけの袋の裏に書いてある原材料ですら読みたい人間です。とはいえ、私にも好きな本のジャンルというものもあります。昔から、つい手に取って読んでしまったり、何度も読み返してしまったりします。それはどんな本かといいますと、精神科医が書くエッセイです。

 河合隼雄さんの本はもちろん好きですし、中井久夫さんの本もとても興味深いです。斎藤環さんの本にはいつも新しい発見があります。そしてこれらの本には大きな共通点があります。どなたも限りなく優しいのです。どの方にも会ったことはないのですが、その語り口といい、話す内容といい、そこには人に対する深い愛情を感じます。中でも私が何度読み返してもホッとしてしまうのが、星野概念さんのエッセイです。

『こころをそのまま感じられたら』というタイトルからもわかるように、星野さんは、相手を専門家としての目線や、研究対象として見るなどということは無く、人と人としてフラットに、どうしたら相手のことをもっとわかるだろうか、ということを1番に考えて患者さんと接している人だと思います。エッセイの内容もとても柔らかく、読んでいると肩ひじ張ることがバカらしくなってしまうような、もっと脱力して生きたほうがいいな、みたいな気持ちにさせてくれます。

 こうしたほうがいいよ、とか、こんなふうに生きると楽になるよ、とかそんな話は全くありません。ただ、星野さんが日々暮らしていて起こったちょっとした面白いこと、考えたこと、発見したこと、何でも無いこと、などが優しくそして面白く綴られているのです。じゃあそれだけなのかというともちろんそんなことは無く、精神科医の星野さんですから、読む人にプレッシャーを与えず、こころをほぐして、そして気持ちを落ち着かせてくれるようなことを書いてくれています。

 星野さんがこの本の中で何度も言及していることは、対等であること、そして対話をすることです。人の悩みのほとんどは人間関係からくるものだと聞いたことがあります。でも、それをすこしでもいい形にする方法って、結局これしか無いのかもしれないと思えました。対等であること、対話をすること。これが、難しいこの世の中を少しでも楽に渡っていく方法なのかもしれませんね。こんな生き方ができればと思いました。

 

あわせて読みたい本

『タモリ論』書影

『タモリ論』
 
樋口毅宏
新潮社

 やはり、タモリさんは人生の達人だと思う。タモリさんがよく言っていたと言われているのは、自分は一切反省をしないということだ。確かに反省なんてしていたら毎日テレビの生放送なんて出来るわけがない。そして、自分にも他人にも期待しない、というのもタモリさんの言葉だ。すべてにおいて対等に判断するということなのだろう、そしてほぼ毎日誰かと対話をしていた。なるほどこれか。こんな生き方ができればと思いました。

 

おすすめの小学館文庫

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった +かきたし

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった+かきたし』
岸田奈美
小学館文庫

 岸田奈美さんの本は、本当に笑えます。笑ってしまうのですが、なんだか泣けてしまうんです。つらいことや大変なこと、それは誰にだってあるけど、岸田さんのところには、尋常じゃないほどある。でもそれを笑い飛ばすパワーが凄い。岸田さんはすべての人や出来事に対して対等に向き合うし、対話をする人なので、人生を面白おかしく見ることができるのでしょうか。この本でもまた、こんな生き方ができればと思いました。

◎編集者コラム◎ 『賞金稼ぎスリーサム!』川瀬七緒
連載第4回 「映像と小説のあいだ」 春日太一